◆小説◆

□心地良い二人分の温もり
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部室に響く無機的な音。
ひたすらシャーペンが字を書いていく。
データ整理に追われ最近は帰る時間が遅い。



「もう今日は帰る?外真っ暗よ?」



向かい側に座るヒル魔くんに話しかければノートパソコンを叩く指が止まる。



「どれくらい終わったんだ?」

「予定の半分過ぎくらいかしら。まだ結構残ってるわね。」



ヒル魔くんは手元のデータと私の顔を交互に見ると何を思ったか「ウチ来るか?」と聞いてきた。


「・・・なんで?」


本当に何故?
彼の家に私が行かなければいけないのだろうか。
できれば疲れている体を一分一秒でも早く休めたいのに。



「テメェが悪ぃんだろ。終わらせねぇから。だから俺ン家で続きやるかって言ってんだよ。」

「・・・そうね。今日までに終わらせなくちゃいけなかったものだし。もちろんヒル魔くんも手伝ってくれるのよね?」

「ありがたく思えよ?場所提供するだけじゃなく手伝ってやるんだからよ。」

「でも・・・やっぱりヒル魔くんの家に私一人で行くのは・・・ちょっと・・・。」

「あー?んだテメェ。変な妄想でもしてんのか?風紀委員がそんなんでいいんですかネェー?」



おもいっきり口角を上げてニヤつくヒル魔くんに腹が立ったけど、実際それに近いことは考えていたわけだから言い訳できない。



「わかりました。行きます。じゃ部室の整理してから行くからヒル魔くん先に校門行っててもいいわよ。」

「ヤダね。外寒ぃし。」



それから掃除して片付けて。
一切手伝わずただ見てくるだけのヒル魔くんと部室にいた。
どうしてこういうときに限ってパソコンをいじってくれないのだろう。
ずっと見られては変に緊張してしまう。
意識する必要すらないのに、体の中から熱くなるような感覚が走った。



「ごめんね、時間かかっちゃって。」

「行くぞ。」



やっと終わらせたときには学校に残ってる人が私たちだけかのように閑散としていた。
二人歩調を合わせて歩く。
歩幅が違うはずなのに歩くペースが一緒なのはきっとヒル魔くんが私に合わせてくれてるから。
・・・なんていいほうに考えすぎかしら?



「そういえば・・・私ヒル魔くの家って初めてだわ。」

「だろうな。誰も来させたことねぇし。」

「そうなの?じゃあ私が1番ね、フフ」

「なんで嬉しそうなんだよ?」

「嬉しいからよ。」

「わけわかんねぇー」



それから着くまでの間会話という会話はあまり無かった。
沈黙が続いてもお互いそれを壊そうとはせず、むしろ楽しんでる感じ。
ヒル魔くんの家は歩いて着く距離だった。
駅の近くにあるマンションに住んでるようだ。
オートロックのゲートをくぐり、エレベーターで上がっていく。
呼び出し音は鳴らさず、慣れた手つきで鍵を開け中に案内される。


「スリッパは使うなら適当に履けよ」

「うん」


殺風景。
この家ほどその言葉がよく似合うのはそうそう無いだろう。
最低限のもしか置いておらず、キッチンに至ってはほとんど使用した跡すらない。
真っ暗だった部屋に次々と電気がつき、一瞬で明るくなる。
物が少ないせいか余計に広く見えるリビングルーム。



「ねぇ、ヒル魔くん・・一人?」

「まぁそんなもんだ」

「そう・・・。あ、荷物ここに置いちゃっていい?」


適当な場所を指し許可が下りる前に鞄を置く。


「それじゃやるか。」

「ヒル魔くんはこっちお願いね。」


再びデータ整理。
変わったのは場所だけ。
テキパキと片付けていくヒル魔くんのおかげで早く終わりそうだ。
そうして1時間近くが経過した・・・。



「腹減った。」

「え?」

「なんか作れ。」

「え、でも・・・私もそろそろ帰らないと・・」

「ほーう、腹空かしたヤツ放って帰宅ですか?」

「・・・作るわよ。」

「アリガトウゴザイマス」

「感情こもってないわよ、その言葉。」



ヒル魔くんの家で夕飯を作るとは思っても見なかった。
これじゃ・・・同棲してるみたい・・・。
変な考えを頭から振り払うように
冷蔵庫に入ってるものを一通り見渡した。
その材料で作れそうなものを考える。


「ハンバーグでいいかな・・・。」


決まれば行動するのは早い。
料理は苦手じゃない。むしろ得意なほうだ。
一緒にサラダも作ろうと同時進行でレタスも切っていく。
そうして出来上がったハンバーグを皿に盛り付け、ヒル魔くんのもとへと運んでく。



「見た目は悪くねぇな。」

「味もきっと悪くはないわよ。」


一口大に切ったハンバーグを口元へ運び、ぱくりと含む。
うん、これならヒル魔くんも文句はないはず。
反応を窺おうと見ると、黙って食べ続けるヒル魔くん、


「えっと・・・食べれる?」

「あぁ、美味ぇよ。」


どうしてだろう。
セナに食べさせたときも美味しいと言ってくれたが、ヒル魔くんに言ってもらえた言葉のほうが嬉しくて、同時に心臓がバクバクする。
きっと予想してなかったからよ。
うん、きっとそう・・・。


「それじゃ、そろそろ本当に帰るわね。」


食器も洗い終わり、残る理由がなくなった今ここにいる必要はない。


「泊まってくか?一人で帰んの危ねぇだろ。」

「・・・え?ヒル魔くん気は確か?」

「やましい気持ちが無いなら問題無ぇだろ。」

「でも・・・。」

「ホラ。」



家の電話番号を携帯に表示させて見せ付けてくる。
なかなか発信画面にすることができない。
ヒル魔くんの家に泊まりなんて考えたこともない。
でも・・・
心のどこかでは泊まりたいと思ってる自分がいて・・。
だから押してしまった。


「もしもし?」

「お母さん、私だけど。今日友達の家に泊まることになったから。」

「あら急ね、どうしたの?」

「ちょっといろいろあって。」

「わかったわ、友達のお母さんによろしくね。」

「うん、じゃあね。」



簡単に外泊許可が下りてしまった・・・。
いつの間にかヒル魔くんの姿がなくて、心配になり探そうとしたら私服に着替えたヒル魔くんがいた。


「風呂入れてっからお前先入れ。」

「え、あ、はい。」


情けない声しか出ない自分が恥ずかしい。
風呂場までいき、この状況を考える。
このまま泊まってしまっていいのだろうか?
友達の家に泊まることは初めてではないが、その相手がヒル魔くん・・・。
湯船に浸かってる間もひたすら考えたが、結局親に連絡した今自分には泊まるという答えしか残されていないというのに。
出る頃には体も温まり、考えすぎた頭も無駄に温まってしまった。



「お風呂ありがとう。」

「あぁ、部屋はそこだ。」

「あ、うん・・・。じゃ、おやすみなさい。」



まだ湿った髪が気になったが、そのうち乾くだろう。
今日はとりあえず寝よう。
ヒル魔くんの家に来てから落ち着かない心臓も寝てる間は大人しくしてくれるはず。
案内された部屋の中心にはベッドがあった。
するりと入り込む。
冷たい布団が自分の体温を吸って暖まっていくのを目を閉じながら待った。
うとうとしてきた頃ドアが開いたが、眠気のほうが勝っていたので目を開けることができなかった。
しかしさすがにベッドにもう一人入り込んできては目が覚めてしまった。


「ちょ、ちょっと・・・!」

「チッ、起きてたか。」

「あのね、何してるのよ?」

「決まってるだろ、夜這い。」

「ヒル魔くん///」

「簡単に男の家に泊まるお前が悪いんだぜ。」

「・・・ひどい人。でも・・・嫌いになれないのは何で?」


私の上に四つん這いになってるヒル魔くんの顔が見えなくてよかった。
こんなこと言ってる自分はおかしい。
目なんかあわせられない。



「答えを教えてやろうか?それはテメェが俺に惚れてるからだ。」

「うん・・・きっとそうだね・・・。」


見えないけど大体の位置はわかる。
腕を伸ばしてヒル魔くんの首に絡めた。
自覚してしまえば簡単だ。
キスなんてどうってことない。
これも愛情表現なのだから。


「誘ってんのか?止める自信無ぇからな。」

「それじゃ一言。」

「・・・んだよ。」

「大好き。」



相変わらず心臓はうるさいけど、それすら心地よく感じる。
私はヒル魔くんが・・・


好きなんだ・・・。





■END■
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