◆小説◆

□ティッシュ密談
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暑い。
なんて蒸し暑いのだろう・・・。
太陽は隠れているというのに湿気が高いせいか、簡単に肌は汗を浮かせる事が出来た。
ハンカチで拭ったりパタパタと仰いで微風を作るも虚しく、まだ身体の熱は引いてくれそうに無い・・。


「あ・・・、これは・・セナとモン太くんの声かな・・・?」


遠くから聞こえるような二人の声は元気で、部活に熱心になっているということよくがわかる。
残念ながら何を言っているのかまではわからないが、それでもシャーペンを動かす腕を一時停止させ、聞き入るだけの価値はある気がした。


「みんな・・頑張ってるんだなぁ。あ、これは鈴音ちゃん?きっと応援してるのね・・・。」


様々な声が重なり合い、私の頭に心地よく流れ込んでくる。
目を閉じればここは部室であるということも忘れみんなと同じ場所にいると錯覚してしまうほどに。
なんて・・・穏やかな時間だろう・・・。
これで暑さがどこかへ飛んで行ってくれれば最高なのだが。
体が小さく前に揺れた・・。
自分でもびっくりして目を開け眠気を追い払おうとするが、開いたはずの瞼はまた静かに閉ざされ、暗闇とテーブルの冷たさが私を迎え入れるようようとしている。
本来ならそれに逆らわなければならないのに今の私に抵抗するほどの気力は残されておらず、シャーペンを握っていた腕を枕代わりにして頭を乗せるとそのまま眠りについた・・・。


「・・・ん・・。」


どれくらい、寝ていたのだろう?
外は相変わらずの曇り空で、空の明るさから時間を推測するのは難しがったが、先程同様部活に励む声がすることからあまり時間は経っていないのだろう。
変わらない、空。
変わらない、声。
変わらない、ノートの文字。
ほとんどが眠りにつくまえと同じ姿をしている。
そう、ほとんどは・・・だ。
ひとつだけ、テーブルの上に新たに置かれたものがあった。


「・・・アイスティー・・・?」


なんとなく色からその飲み物を想像した。
氷の入ったそれは見ているだけでも涼しく慣なれそうだ。
グラスのちょうど下のあたり、もつ部分にティッシュが巻かれていた。
グラスから滴り落ちていく雫をそのティッシュが吸い込んでいるせいで湿っている。
普通は真っ白なはずのティッシュだが、巻かれていたティッシュはすこし黒い部分もあった。
よく見るとそこには文字が書いてあったのか、短い文のようにも見える。
外して改めて見てみるが、滲んでいるせいで読み取り不可能。
最後の何文字かは辛うじて読めた。


「・・・ケケケ」


カタカナ三文字。
この文字から思い浮かぶのはあの独特の笑い方をする彼しかいなかった。
あの人でもこういうことをするのね・・・。
優しさに触れたことが嬉しかったのか、人間らしい一面を垣間見れたことに感動したのか、とにかく今の私は笑っている。


「さて、と。」


冷たいアイスティーを一気に流し込むと、そろそろ終わるであろう部活の後片付けをするべく私はみんなのいるグランド目指して小走り気味に向かった。
あの文字が滲んだティッシュに私の言葉を付け足すのはもちろん忘れずに、ね・・・。


「ヒル魔くん、どんな反応するかな?」


帰り道が楽しみだ。
隣でちゃんと、貴方の表情を見てやるんだから。







■END■





アトガキモドキ
これヒル魔さんが全然出てこないという。
セリフすらもらえませんでしねーヒル魔さん・・・。
まもりちゃんがティッシュに書いた文字はお好きなように想像してくださいな。
私が考えた文字をそのままこの話の中にいれてもよかったんですが、ここはそれぞれの考え(妄想?)のほうが楽しいだろうと思ったんで。
次はちゃんとヒル魔さんを登場させなくちゃな〜
いっそセリフだけってのもいいな。


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