□小説□
□選ばれなかった薬指と愛された薬指
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「あ…これ…。」
「どうしたのリクオくん?指輪なんてまじまじと見つめちゃって。」
清十字団での休日活動の帰り道、リクオはカナの買い物に付き合っていた。
休日活動と言ってもすぐに解散になったのだが。
理由はメンバーの欠席があまりに多かったため。
島はサッカー部と兼任ということもあって今日はそちらを優先していた。
鳥居と巻は病院にお見舞いに行かなくてはならないからと、どこか嬉しそうに参加できない理由を清継に告げていた。
おそらく休日まで妖怪活動なんてしたくなかったのだろう。
つららは家で家事の手伝い。
よって集合場所に姿を表したのは清継・ゆら・リクオ・カナの4人だけだった。
4人だろうと別段気にする様子も見せなかった清継だったが、ゆらがタイムセールの時間になるとすぐに帰ってしまったので、結局この日は解散になったのだ。
そして今のリクオとカナの状況に至る。
広いデパートの中をカナについて行きながら横目でいろんな店を流し見ていたリクオ。
リクオは特に買う物もなくほとんど暇つぶしに近い状態だったが、カナと入ったアクセサリー屋で一つの指輪に釘付けになっていた。
「その指輪…誰かにあげるの…?」
リクオと指輪を交互に見ながらカナは尋ねた。
愛情すら感じる優しい瞳で指輪を見つめるリクオとは反対に、カナは今にも泣きだしそうなほど悲しみの色が強かった。
「うん。この指輪つららに似合いそうだなぁと思って。」
「…そっか…。」
「でもサイズがわかんないんだよね。カナちゃんの指で試してみてもいい?たぶんつららとそんなに変わらないだろうし。」
「え…。あ…うん…。」
「ありがとう。」
カナの気持ちを知らないとはいえ無邪気な笑顔で残酷な注文をするリクオ。
自分の指にはめられるであろう指輪は違う女の子ために存在している。
リクオの指からカナの指へと移っていく。
はめられた場所はよりもよって左手の薬指だった…。
「あ、これぴったりだね!これにしようっと。ちょっと買ってくるね!」
「…。」
あっさりと抜き取られた指輪はもう2度とカナの指を包むことはない。
本当の持ち主の指で輝き続けるのだろう…。
「なんか…バカみたい。なにやってるんだろ私…。」
カナの呟きは誰に聞こえるわけでもなくデパートの喧騒に掻き消された…。
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「指輪欲しい?」
「…指輪、ですか?」
「うん。いる?いらない?」
「え?え?私が…貰うんですか?」
「つらら以外に誰がいるの?」
「だって…。リクオ様から私への贈り物だなんて信じられなくて…。嬉しいです、ありがとうございます…!」
「よかったぁ、受け取ってもらえなかったらどうしようかと思った。」
リクオは早速家に帰ると縁側で休んでいたつららに話しかけた。
最初はリクオの言っていることが理解できなかったようだが、次第に喜び始めていた。
目には嬉し涙さえ携えて。
「この指輪を見つけたとき…一番最初につららが思い浮かんだんだ。」
つららの左手を持ちながらリクオは言った。
徐々に近づいてくる指輪はつららの心拍数を上げていく…。
「リクオ様…。こんなに素敵な指輪…本当にありがとうございます。一生大事にしますね!」
「一生って大袈裟だなぁ…。」
再度つららが礼を言うと指輪はぴたりと、その白く細い指にはめられた。
「え…。この場所って…。」
「ダメだった…?」
「い、いえ!そんなことないです…!」
つららの左手の薬指で輝く指輪は沈みかけた陽の光も吸い込むかのように一層眩いものになっていた。
左手を自分の顔の前に持ってきて見つめるつらら。
視線は指輪を捕えたまま動かなかった。
「もう少し…、」
「はい…?」
リクオは自分の指をつららの左手に絡めながらそっとつららの額に口付けて言った…。
「もう少し大人になったらさ、今度はもっとちゃんとしたのをこの指にはめてあげるからね…。」
「リクオ様…。」
「だからそれまではこれで、ね…?」
「はい…。楽しみに待ってます…!」
リクオは未来の約束を誓うかのように今度は額ではなく唇に自分を重ねた…。
世界に一つの愛をその指に
■END■
アトガキモドキ
リクつら←カナ風味で。
カナちゃんには可哀想だけど私はリクオはつららと幸せになってもらいたんだ…!