★小説★

□甘い授業
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「ハァ…、調理実習なんてかったるくね?」

「そう?私結構楽しみだけど。」

「鳥居は妙に女の子みたいなところあるしなー。」

「何言ってんの、巻も女の子でしょ。」


午後の授業は前から言われていた調理実習の日だった。
黒板の文字を写し終えた者からエプロンや三角巾を用意して家庭課室へと向かう。


「あれ、リクオくん?行かないの?」

「あ、僕は最後に行くよ。黒板消したり戸じまりしなくちゃいけないし。」


カナはなかなか教室を出ようとしないリクオに声をかけた。
相変わらずのいい人っぷりを発揮させるリクオに、カナは無言で立ちあがった。
向かった先は黒板。


「カナちゃん…?」

「一人より二人のほうが早いでしょ?」

「あ、でも…」


言い淀むリクオを気にせずカナは黒板消しを手にとろうとした。
が、目の前にあった黒板消しは違う誰かの手の中へ。


「さ、リクオくん。早く終わらせましょう?」

「ありがとう、つらら。ごめんねカナちゃん、先に行ってていいよ?」


リクオに頼まれたわけでもないのに一緒に黒板の文字を消していくつらら。
その間にリクオは窓の鍵を確認していく。
その様子がなぜか気に入らなくて、カナは不機嫌になりながらも荷物を持って教室を出た。








*************









「それじゃ班ごとに協力してカレーを作ってくださいね。わからないことがあったらすぐに質問するように。」

「はーい」


生徒たちの元気な返事で調理実習は始まった。
まずはエプロンを身に着け頭に三角巾をかぶり手を洗う。


「それじゃ僕たちも協力して作ろうか。」


リクオの班はカナ、島、つららの4人だ。
一番に準備を終えたリクオは笑顔で班員に開始を促す。
カナ、島も準備を終え手を洗っていた。
そんな中一人だけなかなか先に進まない者が…。


「リ、リクオ君…」


涙目でリクオのことを見つめるつらら。
頭には三角巾が乗せてある状態。
長い髪が邪魔してうまく結べないのだろう。
悪戦苦闘していたつららだが、リクオのエプロンの裾を軽く引っ張り「やってください」と目で訴えていた。


「ほら、こっちおいで?やってあげるから。」

「ありがとうございます…!」


リクオに背を向け結びやすいように髪を持ち上げる。
そうすることで露わになるつららのうなじ。


「結び終わったけど…しばらく髪はそのまま上げてて?」

「え?どうしてですか…?」

「…こうしたいから…。」

「ひゃあ…ッッ…!?」


つららの綺麗な肌に引き寄せられるようにリクオはそこに顔を沈めた。
そして噛みつくように自分の印を咲かせる…。


「ちょっと・・リクオ君…みんなに気付かれます…!」

「うーん…、大丈夫じゃない?」


つららの言うとおり何人かはこちらに注目している。
しかしそんな視線は気にすることなくリクオはつららの腰に腕を回し抱きしめた。
耳元にかかるリクオの吐息。
騒ぎだす心臓。
とてもこれから料理を作るという雰囲気では無かった。


「な、な、な…!なにやってんだよリクオ!?」


島の大きな声でリクオはあっさりつららから離れる。


「何って…三角巾つけるの手伝ってただけだよ?」


笑顔で真実のような嘘を言うリクオ。
つららは材料を軽く水洗いして包丁で切る準備を始めていた。
その普通の態度に島も納得したのか、これ以上リクオに問い詰めることはなかった。
そしてやっとカレー作りが始まった。
それぞれが自分の担当の食材の皮を剥いたり切ったりする作業を始める。


「つらら。」

「はい。」


リクオがつららの名前を呼ぶ。
それだけでつららは自分がどう行動すべきかわかっているようで、テキパキと進めていく。
息の合った二人にカナと島は呆然と二人を見ることしかできなかった。


「あ…!」


ジャガイモを切っているリクオから小さな声が漏れた。
それを誰よりも早く聞きつけたつららは自分の作業を中断してリクオのところへ向かう。
リクオの手元を見てみれば、そこには不均等に切られたジャガイモの姿が。
基本的に料理をしないリクオにとって包丁を扱うこと自体が難しいのだろう。
つららは哀れなジャガイモを見てクスリと笑うと、リクオの後ろに回った。


「まずは半分に切ってください。」

「え?う、うん…。」

「それをまた半分に切って、均等に切っていけばいいんですよ。」


すぐ近くからつららの声が聞こえる。
後ろばかり気になってしまい、リクオは包丁よりもつららに意識が向いてしまっていた。



「あ!リクオ君…!指から血が…!」

「え?…ッ!」


指に鈍い痛みが走った。
つららに言われて初めて指を切ってしまったことに気づく。
咄嗟につららは自分の口の中にリクオの指を入れた。
ゆっくりと口内に広がっていく鉄の味。


「つ、つらら…!」

「まったく…あとは私がやりますから。リクオ君は包丁持っちゃダメですよ?」

「…わかった…。」


それからリクオは絆創膏の貼られた指と料理しているつららの姿を見て過ごしていた。
着物にエプロンではなく、制服にエプロン。
そして普段はつけていない三角巾姿のつららはいつもと違って見えた。









*************








数十分後。
食欲をそそるカレーのいい匂いが充満していた。
全部の班が作り終え、あとは試食するだけ。


「いただきまーす!」


号令と共にスプーンを持ち自分たちが作ったカレーを口に運ぶ。
一人だけ除いて…。


「あれ?及川さんは食べないの?」

「あ、えっと…食べるけど…。」


不思議そうに聞くカナにつららは心の中で「凍らせてもいいのなら」と付け加えた。
熱いものが苦手な雪女にとって出来たて熱々のカレーは天敵だ。
唯一つららがカレーに手をつけない理由を知っているリクオは「つらら、こっち向いて。」と言って自分のほうを向かせた。
そしてスプーンに乗ったカレーにふぅふぅ、と冷ますように息を吹きかけると、それをつららの口元まで持って行った。


「はい、あーんして?」

「リ、リクオ君…!」

「ほら、早く。」

「…はい…。」


言われた通り口を開ければカレーの味が口いっぱいに広がる。
『辛い』と感じる前に『熱い』と思った。
つららは口をパクパクさせながらなんとか飲み込もうと頑張っている。


「お、及川さんって猫舌なんスね!それじゃ今度は俺がやってあげるッス」

「ダメ、島くん。」

「は?なんだよリクオ。」

「だって、次のやり方は僕にしかできないから。」

「何言ってんだお前…?」


リクオは不敵な笑みを島に向けると、カレーを口に含んだ。
飲み込まずにそのままつららの唇へと向かう。
そしてやっとカレーを飲み込んだつららに口付けた。
リクオから再びカレーの味が伝わってくる…。
拒絶することのできない味。
体が痺れるのは辛いからではなく甘いから…。


「これならつららでも食べれるでしょ?」

「そう、ですね…。それじゃ…もっとお願いしてもいいですか?」

「もちろん。」












甘い授業は特別授業






■END■




アトガキモドキ
ネタ提供者昧依様!ありがとうございます!
ツーカーぶりというものがどんなものかわかんなくて自己解釈して書きました。
結構甘くしたつもりなんですけど…どうでしょうかね?
家庭課室でイチャついてんのに先生が何も言わないのは何で?とかいうツッコミはどうぞ心の中でお願いしますw


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