*小説*

□重い楔を断ち切って
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悠遠の時空を彷徨った挙句に持ち帰ったのはたった一枚の花びらだった…。


「…何も…あるわけないわよね…。」


目覚ましが鳴るよりも早く目が覚めた。
一日の始まりを告げる日の光がカーテンに浸み込み、僅かに部屋の中を照らす。
永遠のように感じた世界。
終わりの無い世界。
誰もいない…自分だけの世界。
たった一人でそこにいた…。
何かを探し求めて駆け出してみたものの、自分がどこに向かっているのかわからない。
前へ進んでいると思っていても闇の中には先も後ろもない。
そんな寂しい夢の中で真っ白な花弁が一枚だけ降ってきた。
風など吹いていないというのにその花弁はなかなか落ちてこなかった。
左右へ遊ぶように揺れている。
誰にも捕まりたくないのか、自由に闇を縫う花弁から目が離せないでいた。
それを追いかけ両手で受け止めようと必死に足掻き、掴めたと思った瞬間には現実の世界へと引き戻されていた。
そっと手の中を覗いてみるが、やはり何もなかった。
夢と現実の区別すらつかないのかと、自嘲的な笑い声だけが虚しく空気を振動させていた…。


「さて、と…。今日もリクオ様の護衛頑張らなくちゃ…!」


つららは忘却の彼方へと真っ白な花弁を葬った。
忘れてしまえば、何も残らない。
信じるのは主だけ…。










*************









「…っ…ら……つらら…!」

「は、はい…!?」

「どうしたの?最近意識飛んでること多いみたいだけど…?」


真昼の暑さはどこへやら。
沈みゆく太陽は全盛期の残像に過ぎない。
長い影を引っ張りながらリクオとつららは家路についていた。
リクオに声をかけられ初めて二人きりということに気づくつらら。
いつもの学校のメンバーとは既に別れたようだ。
つららのスカートを揺らす風は頼りなく、心を煽るにも弱過ぎる。


「…つらら?」


突然一人分の足音が消えた。
立ち止まったつららにリクオも足を止めて振り返る。
そこには頭を垂らして俯くつららが。
地面を見つめているとリクオの靴がつららの視界に入ってきた。
微かな足音を響かせてつららとの距離を縮める。
近付いてくる主に痛みを伴いながら心拍数が上がっていくのがわかるが、処理の仕方がわからない。
何を感じ、
何に怯え、
何を伝えればいいのか、
両手を握りしめても答えは出てこない…。


「安心して…。」

「えっ…?」


温かな腕に包まれ、
腰をしっかりと抱かれ、
唇を奪われたのは、
一瞬の出来事だった…。
鮮やかな一連の動きがつららの瞳孔を開かせる。


「何考えてるのかわかんないけどさ…大丈夫だよ。」

「…なぜ大丈夫なんですか?私が何を考えているのわからないのに…?」

「大丈夫なものは大丈夫なんだよ。僕がつららの傍にいる間は大丈夫なの!」


そう言って目を細め口角を上げるリクオは自信満々な様子だった。
無垢な誓いを唇に乗せてつららに届ける…。
しばらく見つめあっていたが急に照れたように顔を背け、つららの前を歩きだしたリクオ。
そのあとを数歩遅れで追いかける。


「リクオ様…ありがとうございます…。」

「別に…。お礼言われるようなことしてないしね。」

「いいえ。だいぶ救われましたよ…。」


黒が白へ変わるように、不安が明るい色に変化した。


「私…最近よく考えたんです。自分はなんのためにここにいるんだろう、どうしてこんなにも無力なんだろう、と…。」


置いて行かれる。
誰もいない闇の中で一人ぼっちで孤独と歩く。
そんな気がしていた。
主の存在だけを信じ傍で仕え続けていても不安は広がっていく…。
存在意義が曖昧で、ここにいてもいい理由が欲しかった。


「でも、リクオ様が大丈夫と仰ったので私は大丈夫です…!」

「元気になったみたいだね。よかった。」


その笑顔が見れればいい。
優しさが溶け込むように心に沁みてくる。
何も余計なことを考える必要などない。
つららはあの夢の花弁に息を吹きかけ天へと流した。











主の存在が私の存在意義だから




■END■





「主」と書いて「夫」と読む!
これこのお話のテーマねww
いや、ウソです。
テーマなんてないですよw
花びらを追っかけてるつららがいきなり脳内に流れてきたんで書いてみたらなんか重たい話になっちゃってるし…。
自分でもよくわかりませんw


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