○小説○

□幸せな夜
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「いいですか!?絶対に離しちゃダメですよ!?」

「わかったから早く寝ろ。」

「だってリクオ様が…!」

「ちゃんと繋いでてやるから安心しろよ。」

「…わかりました、おやすみなさい。」


この女は本当に眠る気があるのだろうか?
握られた手にはかなりの力が。
同じ部屋に布団を並べて眠るのはこれが初めてか。
氷を握っているように冷たいつららの手は、俺を離すまいとして指を絡めてくる。
その行為が嬉しくて思わず顔が綻んでしまった。


「…若?もう寝ちゃいましたか?」


どれくらいの時間が経ったのだろうか。
少し控え目なつららの声が空気を震わす。


「いや、起きてるぜ。」

「…どこにも行かないでくださいね…?」


まさか俺の日々の行動がこんなにもつららを不安にさせていたとは。
今更だが少し後悔した。
闇色に慣れ始めた瞳でつららの顔を覗く。
障子の隙間から外の光が侵入していたおかげでくっきりとつららの顔が見えた。
同時に見なければよかったと思った…。
月明かりに照らされる彼女の頬に細い筋。
それが濡れているものだと気付き俺まで苦しくなった…。


「なぜ泣いてる?」

「だって…若が私を置いてどこかに行ってしまいそうで…。」

「ちゃんと手ぇ繋いでるだろう?」

「でも…」

「今日は見回りにも散歩にも行かねぇよ。お前は俺の言葉が信じられねぇのか?」

「そんなことありません…!」


握っていた手を強く引いてやった。
そのまま抱き寄せ俺の布団の中で体を密着させる。
手ではなく体を。
遠過ぎる温もりより冷たさを。
空気ではなく柔らかさを。
つららのすべてを感じさせてほしい…。


「わ、リクオ様…!は、恥ずかしいです…!」

「俺がいなくならねぇように傍にいたかったんじゃねぇのか?」

「それは…そうなんですけど…。」

「だったら文句言うな。」


鼻いっぱいにつららの香りを吸いこんで、
一言も漏らさないようにつららの声を脳に刻み込んで、
熱い夜に丁度良いつららの体温を抱いて、
俺はこれ以上ない幸せを感じながら目を閉じる…。


「おやすみなさい、リクオ様。」


最初の「おやすみなさい」よりも随分穏やかな声音だった。
体を少し起こし間近にあるつららの顔を見降ろす。
そして時間を忘れるような口付けを落としてやれば一生懸命に反応してくれた。
愛しい愛しい俺だけの至宝の華に水をやれるのは俺だけだと思いながら深く繋がる。
時折漏れるつららの嬌声。
卑しい鼓動は鎮まることを知らないらしく激しく乱れる。


「リクオさま…愛してます。」

「そんなことはだいぶ前から知ってるぜ?」











彼女の笑顔を咲かせるのは俺の愛だけ




■END■


アトガキモドキ
う〜ん…
最初は夜遊びしまくりな若をどこにも行かせないように軽く監禁するような話のはずだったんだけど…。
いつの間にか微笑ましい二人になってるorz
若はわざとつららに妬いてもらうために夜遊びしてたり〜っていうのを考えてたんだけどな…。
なんか…うまいこと繋がらなかった…。


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