♪小説♪

□Love of fate
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「で?どうしたんだ?井上?」


保健室特有の薬品の匂いを吸い込みながら一護は織姫に優しく問いかけた。
保険医も生徒もいないこの時間、二人だけの室内。
白で統一されたベッドに織姫は座っていた。
枕を抱きしめながら小刻みに震える織姫は、何かに怯えてるようだった。


「井上・・・?」

「ごめん、ごめんね・・・。私・・」

「言いたくなかったら言わなくてもいいんだぜ?」

「うん・・。今は、まだ・・・ごめんなさい・・。」

「アイツか?あの新しい副担だろ?」

「・・・!」


大粒の涙が頬を伝い落ちるのも気にせず、織姫は身をびくりと震わせ、先程までのウルキオラの視線を思い出していた。


「井上・・・。」


一護はそっと織姫を抱きしめると安心させるかのように頭を撫でた。


「お前が何に怯えてるのかはわかんねぇけど、俺はお前の傍にいるから・・・。」

「黒崎くん・・。」


―俺はお前の傍にいるから・・・。―
一護の一言が織姫の心に響いたのか、激しかった嗚咽は止まり静かにすすり泣く声だけが聞こえた。
あの人は私にそんなこと言ってくれたことないな・・・。
冷たい眼差しで無表情を変えることなく、ただ、ぐちゃぐちゃにされた・・・。
私の思いはどこへ行くの・・?
なんで・・・あんなこと・・・。


「ぇ・・・うえ・・・井上?」

「え?」

「大丈夫か?放心状態だったけど・・。」

「あ、ちょっと昔のこと思い出してて・・・。」


思い出したくない過去の思い出は忘れようと努力したはずなのに鮮明に思いだせてしまった。
刻み込まれた温もりは、今も消えない・・・。


「よしよし。落ち着いたか?教室戻れそうなら戻ろうぜ。そろそろ1限目が終わる。」

「黒崎くん、ありがとう。」

「俺は別になにもしてねぇし・・・。」

「ううん、私・・黒崎くんが大好き・・。」

「な、んだよ・・・いきなり・・・。」


織姫が抱きつくと一護はびっくりしたように、それでも照れた感情を隠しきれずにいた。
ゆっくりと体重を一護に預け、押し倒すようにベッドに横たわらせた。


「井上・・・?」

「ねぇ、黒崎くん・・しばらく、こうやって抱き合っててもいいかな?」

「あぁ・・。」


二人は抱き合うというよりは添い寝をしながら、1限目の終了を告げるチャイムを聞いていた。
保険医はとうとう姿を現さなかった。
この学校の保険医、市丸ギンは仕事をサボることで有名なせいか保険医のいない保健室というのはもはや日常化していた。
そのせいか保健室は絶好のサボり場でもあった。
休み時間ともなれば、おそらく生徒がやってくるだろう。
それまでのほんの僅かなひと時を織姫はただ、一護の温かさを感じていたかった。
過去を消し去る事は誰にもできないけれど、受け入れることもできないから・・・。


(私は黒崎くんが好き・・。)


言い聞かせるように、過去の影を振り払いながら、織姫は一護の腕の中で浅い眠りにつき始めていた。




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