♪小説♪
□隣にいられる幸せ
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ただ座っているだけなんて本当は嫌だったけど、仕方がない。
黒崎くんはそういう人だから・・・。
先にテーブルに置かれたのはグラスに注がれた冷水。
そして食パンが数切れ。
最後は黒崎くん作のビーフシチュー。
「わぁ!美味しそうだね!」
「見た目は・・な。味自体は井上に合うかどうか・・・。」
「えー!絶対美味しいよう!早く食べよ?」
「あぁ、じゃあ、いただきます」
「いただきまーす!」
スプーンに掬って口に含む・・・。
温かい液体が喉を伝っていくのを感じる。
「美味しいよ!黒崎くん!コレお店開けると思うよ!」
「んな大袈裟な」
「お肉も柔らかくて美味しいー!」
「圧力鍋で頑張ったからな。肉の柔らかさは自信ありだぜ」
「黒崎くんってお家でも料理するの?」
「いや、毎日遊子がやってるからな。殆ど作らねぇ。」
「えへへ。じゃ私は得したね」
「なんでだ?」
「だって、黒崎くんの手料理なんてすっごくレアだもん!」
「ったく・・・。こんなんでよけりゃいつでも作ってやるよ。」
「約束だからね?」
「あぁ。だけど今度は井上の番な。井上の料理は独特っつーか、楽しめるっつーか。ま、楽しみにしてるからよ。」
話ながらも減っていくシチューは本当に美味しくて。
・・・コレを作った人は私にとって大切な人。
―失いたくない、と心の底から思う。
こんなに笑えるのも。
穏やかな気持ちになれるのも。
きっと隣に黒崎くんが居るから・・・。
毎日繰り返される日常も、黒崎くんとなら違った色で見える気さえする。
それだけ私の中でこんなにも存在の大きい人になってたんだ。
私はこの幸せが崩れることを・・・。
――拒絶する――
■END■