♪小説♪
□隣にいられる幸せ
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「熱ッ!!」
「大丈夫!?黒崎くん!?」
「あぁ・・・。井上はゆっくり休んでろって。」
「うん・・・。」
「今日は俺がご馳走してやるからよ。」
大好きな人が自分のためにご飯を作ってくれるのはすごく嬉しい。
でも・・・。
先程から黒崎くんのあげる声のせいで不安が増し、表情にまで出ていると思う。
とてもゆっくりしていられるわけがない。
第一、一定の間隔で黒崎くんの声が聞こえるんだからテレビなんてつけていても無意味だ。
リモコンに手を伸ばし、赤い電源ボタンを押せば、プツ-・・・ンと簡単にそれは消えた。
台所で苦戦している黒崎くんを見るのは新鮮で、その背中を記憶の中に深く刻むかのようにじっ・・・と見た。
――男の人の背中って、こんなに大きかったっけ・・・?
自然と比較してしまったのは優しいお兄ちゃん。
お兄ちゃんもこんなふうにご飯作ってくれたんだよね・・。
「ん?井上、テレビ消したのか?」
「あ、うん。見たい番組やってなかったし。それよりもう終わったの・・?」
「いや、今は煮込んでる最中。」
「じゃあ、ちょっとした休憩時間だね!」
「あぁ。」
料理に全神経を注いでいた黒崎くんと少しでも話せる時間があると思うと、自然と口角が上がる。
知らないうちに自分は料理されている具材たちに嫉妬していたようだ。
ただ見つめることしかできなかった先ほどまでの過去に、ちょっとの間だけサヨナラだ。
「どうしていきなりご飯なんて作ろうと思ったの?」
「なんっつーか、日ごろの感謝?」
「え・・・?私感謝されるようなことなんて何もしてないよ?」
「バーカ。お前といると癒されんだよ。“隣にいてくれてありがとう”って気持ちを込めて作ってるからな。不味いかもしんねぇけど食べてくれよな。」
眉間にしわを寄せ、照れ隠しなのか視線を合わせず台所へと戻っていく黒崎くん。
彼からそんな言葉が聞けるなんて思ってなかった。
夢の中にいるような・・・、でも現実なんだという確かな証拠に、心臓が五月蝿いくらいに存在を証明してくる。
―ぐぅぅぅぅ・・・。
ついでにお腹からも催促するかのような音が聞こえてきた。
「〜///」
「腹減ったか?悪ぃな。もうすぐで出来るから。」
テレビを消してしまったせいで雑音が少なくなった部屋では、ばっちり黒埼くんにも聞こえていたようで。
この状況でお腹が鳴ったことに恥ずかしいを通り越して、自分に呆れてしまう。
穴があったら入りたいとは今の私にぴったりだ。
なんとなく膝を抱えて座り直し、大人しく待つことにした。
お皿に盛り付けているところを見ると、あと数分で黒崎くんと一緒にご飯を食べれるということになる。
あとちょっとで訪れる未来像を頭に思い浮かべていると、黒崎くんと目が合った。
「あ、えっと・・・//この匂いはビーフシチューかなッ!?」
「正解。味は保証しねぇけどな。」
言葉ではそんなことを言っているけど、きっと自信満々のはずだ。
本当にそうならもっと落ち込んでいると思う。
微笑をうかべるその姿に、つられるように私も微笑んだ。
「じゃあ私お水用意するね!」
立ち上がろうとしたら肩に手を置かれ、やんわりと制止させられた。
「井上は何もしなくていいから。俺にやらせてくれよ。」
「は・・・い。」