○小説○

□純白は誰のもの?
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冬の終わりを感じさせるような柔らかな日射しを浴びながら、一匹の白い猫が奴良組本家内を悠々と闊歩していた。
上機嫌に尻尾を宙に漂わせながら、ゆっくりと足音もなく歩いている。
池の側まで来ると中を覗き込むように首を伸ばしたが興味はすぐに縁側へと移ったらしく、猫は地面を蹴って目的地へ向かって走り出した。
その先には長い黒髪を風に揺られながら心地良さそうに空を見ているつららが。


「にゃぁ。」

「あらあら。迷いこんじゃったの?」


可愛い、と毛並みを整えるように背を撫でながら、縁側で座っていたつららは猫を膝へと案内した。
大人しくつららに抱かれ無防備に横になる猫に、つららは優しい笑みを零す。
冷たい指先が猫の頭を撫でるたびに猫からは気持ちよさそうに喉を鳴らす音が聞こえ、つららはそんな猫を可愛がるように撫で続けた。


「ふふ、ここが気持ち良いの?」


耳の裏につららの指先が触れると猫は先ほどよりも気持ち良さそうに目を細めていた。
つららの手が止まると猫は不満そうに目で訴えてくる。
目だけではなく自身の前足でつららの手を軽く引っ掻きながら主張してきた。


「もう…甘えん坊さんね?」

「誰が?」

「はぅわ…!?」


猫の頭を撫でようと手を動かした瞬間、後ろから聞きなれた声が。


「リクオ様…!?」


つららの顔の横に並ぶリクオの顔。
その位置から言葉を発せられると自然と耳元に息が吹きかかり、つららはビクン、と体を震わせてしまった。


「にゃっ…!」


その動きに驚いたのか、気持ちよさそうにつららの上で寝ころんでいた猫は一瞬で地面に降り、どこかへと走り去ってしまった。
走り去る間際、一瞬だけリクオを睨んだように見えたのは気のせいか…。
その姿を眺める二人の表情は対照的に彩られていた。
「あぁ…。」と残念そうに猫が走って行った方を見ているつららと、「どっか行っちゃったね。」と語尾に音符マークでも付きそうなくらい上機嫌なリクオ。


「あぁ…猫が…。」

「そんなにショック?」

「うぅ…。あまりにも可愛かったので…。」

「…僕じゃ、ダメ…?」

「え?」


ごろん、と横になるとリクオは先ほどまで猫が占領していたそこに頭を乗せた。
雪女だからなのか、長時間外にいたからなのかはわからないが、リクオの頬に触れるつららの着物はひんやりとしていた。
しかしその冷たさの中にほのかに残る温もり。
相手が猫だとわかっていても気に入らないと思ってしまうのは仕方の無いことで、リクオは思いきり表情を歪めながらつららのことを見上げた。


「ねぇ…僕じゃダメなの…?」


そしてもう一度同じ台詞を吐き出しながら、つららの頬に手を伸ばす。


「あ、えっと、その…あの…!」

「いいよね、僕で?」


あたふたと、まだリクオが膝の上にいる状況に慣れていないつららからは言葉になりきれていない返事が。
リクオは強引に自分の言葉を重ねて満面の笑みでつららの大きな瞳を覗き込んだ。
真っ直ぐに射抜かれ、つららの心臓は素直に愛しい人に反応して叫んでいた。


「少なくとも僕は…つららがいいな。」

「はい…。私も、です…。」


リクオは掛けていた眼鏡を外し無造作に置くと、つららの頭ごと自分へと引き寄せた。
後頭部に感じるリクオの掌に誘われるようにつららは目を閉じる。
二人を温かく照らしていた太陽が、一瞬だけ真っ白な雲に邪魔をされその光を遮られた。
それはまるで先ほどの猫が二人の邪魔をするように、せめて光だけは届けさせてやるもんかと訴えるかのように、短い陰の世界を作り出す。


「暗くなっちゃった。でもまぁ…その方がいいか。ね?つらら?その方が恥ずかしくないでしょ?」

「ぇ、…んっ…。」


リクオは暗くなったことには一切気にせず、むしろ楽しそうにつららの唇に触れた。
つららの冷たく柔らかい唇に軽いリップ音をたてながら触れ、数秒で離れる。
間近で見るつららの顔は照れているのか白い頬に朱色が混ざり、やや潤んだ瞳はリクオを煽るように見つめてきた。


「ねぇ、今つららの頭の中にいるのは誰?さっきの猫?」


答えなんてわかりきっている。
傍で感じて、
気持ちを交わらせ、
こんなにも体の芯が疼く。
不安定な音を刻む鼓動はいつだってリクオのせい。
全身をかけめぐる熱を生み出した犯人を見つめながら、つららは柔らかな微笑と共に愛しい人の名前を紡いだ。


「もちろん、リクオ様ですよ。」











熱を宿す心は貴方だけのもの




■END■




アトガキモドキ
平成22年2月22日。
こんなに2がいっぱいあるんだもの。
にゃんにゃんにゃんで猫の日だったし猫ネタでほのぼの目指しました…!
若干リクオが猫に嫉妬してたりするけど、私的には甘くほのぼのを目指したんです…!


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