○小説○

□優しい口吸いに永遠を誓って
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―――満月。
夜は、俺の時間だ。
今日は正面から堂々と言ってみようと思う。

「おぅ、つらら」
「あら、若。どうなさったんですか?」
「雪女と口吸いすると死ぬって、本当か?」
「・・・・・・・・・・・は?」
「だから、雪女と口吸いすると死ぬって本当か?」
つららの肩をつかんで顔を近づけながら問う。
「わわわ分かりませんそんなこと!!」
「じゃ、試してみるか?」
「・・・・っ///」
いっきに距離をつめていく・・・もう少し、あともう少し・・・
「いけません若!!」
途端につららにぐい、と押し戻される。

・・・またこれだ。

つららと想いが通じあってから、三ヶ月はたつ。
だがまだ一回も、・・・キスをしていない。
というよりもさせてもらえない。
キスだけではなく、手をつなぐだとか、抱きしめるだとか、・・・まぁ他にも色々と。恋人らしいことをさせてもらえない。
昼の俺もがんばっているとは思う。あいつなりに、いい雰囲気に持っていって、行動に移そうとするんだが・・・。
いつもひらりとかわされる。

だから今日は、面と向かって言ってみたんだが・・・

「若はまだ中学生なのですよ!?それなのに・・・く、口吸いだなんて・・・早すぎます!!」

・・・だそうだ。

「では若。私はこれで失礼いたします。ちゃんとお休みになってくださいね」
「・・・おぅ」
そういって去っていくつらら。
中学生だから・・・か。
まぁ理由が聞けたのはいいが・・・。それってあと何年待つことになるんだよ!?
かといって無理強いして嫌われたくはないし・・・。
さすがにこれは悩むだろ。

「参ったな・・・」

静かな夜にリクオのつぶやきがそっと響いた。



――翌日。

「リクオ様とお昼ー♪」
と、リクオのクラスへ向かおうとしているときにふと、昨夜のリクオのことが浮かんだ。
(・・・分かっているんです。最近リクオ様が、その・・・く、口吸いとか、そういう、恋人らしいことを私にしてくれようとして下さっていると。
でも・・・やっぱり、若はまだ中学生で、そういうことは早いと思うんです)
そう思って、ずっとごまかし続けてきた。しかし、そろそろ限界が来た気がする。
(どうすれば・・・――!?)
廊下を歩いていたつららの足がぴたりと止まる。
(・・・・っ!な・・・)
つららが目にしたのは、同級生が物陰にかくれて『キス』をしているところだった。
(こ、こ、こんなところで・・・しかも中学生が・・・!!)
若と同い年くらいの子たちが、く、口吸い。口吸い。口吸い・・・・。
『口吸い』という言葉が、つららの頭の中でぐるぐる回る。
(まだ、こんな、口吸いなんて、はや・・・あれ?でも、今の2人は普通に・・・でも、・・・あれぇ!?)
もう何がなんだか分からなくなっているつらら。
そこに・・・
「あっれー?及川さんじゃーん」
「あっ!ほんとだー!さっき奴良がさがしてたよ?」
「巻さん・・・鳥居さん・・・」
(このお2人になら・・・!)
つららは、意を決して、聞いてみることにした。

「え!?中学生でもキスをするのは普通かって?」
いきなりつららからそんな質問が来て、驚いている様子の2人。
「んー。好きなら年齢なんて関係ないんじゃん?」
「そーだよねー。逆になんもしないと飽きられそー」
「あー、そーかもねー!」

あ、飽きられる・・・・・・・!?

2人の衝撃の回答に、もはや放心状態のつらら。
「って及川さん、そんな質問するってことは相手がいるんだ?」
「そこはやっぱ奴良でしょ〜・・・って及川さーん?」
「あれ?フリーズ?」
2人の言葉など耳に入っていない。
「及川さーん。困ったなぁ。・・・お」
「あ、奴良」

『奴良』という名前に反応して、はっ、と我に返るつらら。

「あ、いたいた。つらら。お弁当」
「あ、リクオ様・・・は、はい!ただ今!」
「ひゅー♪あついねぇ、奴良!!」
「仲良くしろよー!リクオ様(笑)♪」
「な、なにがだよ!?///」
面白がってからかう2人に赤面するリクオ。だが、つららはそれどころじゃなかった。

飽きられる
飽きられる
飽きられる
飽きられる・・・・・・・

もうそのことでつららの頭はいっぱいだった。

「・・ら?つらら!」
はっ、と驚いたように顔を上げるつらら。
「どうしたの?大丈夫?」
「リクオ、様・・・」
「ん?」
「私と・・・」
「・・・つらら?」

「私と口吸いしましょう!!」

「・・・え・・・?」
突然のつららの言葉に、驚くリクオ。
「私とじゃ嫌ですか・・・?や、やっぱり若はもう・・・私のこと・・・」
「つらら・・・?」
ぼろぼろと大粒の涙を流しながらわけの分からないことを言うつららに、リクオは少しばかり動揺したが、すぐに落ち着きを取り戻し・・・
「どうした?つらら・・・なんかあった?」
そういって、つららの頭を優しくなでる。
(・・・リクオ様・・・)
心配そうに、だけどとても優しい目でつららを見つめるリクオ。
「つ、付き合って、いて・・・なにも、しない・・と・・・あ、飽きられるっ・・・・て」
泣きながら必死に話すつらら。

(飽きる・・?僕が?つららに?)

――そんなこと、あるわけないのに。

「・・・はぁ、まったく。馬鹿だよね。つららは」
「え・・・・!?」
さらに大粒の涙を浮かべてショックをうけた様子のつらら。
「ば、ばかって・・・やっぱり、若は・・・もう・・―!?」

気づけば、つららはリクオに抱きしめられていた。

「り、リクオ様・・・!?」
突然のことに固まってしまったつらら。

「僕が、つららに飽きる?一生ありえないから。そんなこと。・・・だから、もう二度とそんな心配しないでよ」
そういって、抱きしめる力を強める。
「・・・リクオ様・・・」
――嬉しい、すごく嬉しい。それに・・・
(すごく、安心する)
リクオに抱きしめることで、今までの不安や悲しみはどこかへ行ってしまった。
(どうして今まであんなに拒んでたんだろう)

『好きなら年齢なんて関係ないんじゃん?』

(ほんとうに、そのとうりだわ)

こんなにも、愛しい――。

「まぁ、キスは大歓迎だけどね」
「っえ・・・!!」

――触れるような、優しいキス。

「リクオ、様」
「凍らないね」
子どもの頃のような、いたずらっ子のような笑み。

「リクオ様、大好きです!!」

END


――後日。
「つらら」
「リクオ様?なんでしょうか」
「昼の俺のほうが先たぁ、いい度胸じゃねえか」
「・・・え?」
「今晩、覚悟しとけよ?」








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