お題

どうしよう隠しきれない
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銀色の髪をした、卑怯で卑劣な男が居ると聞いた。

その男が池田屋で斬り合った、煌めきのない瞳をした時代遅れの侍だと知った。

その後、近藤さんの仇討ち…敗北。

屋根の上で折られた刀と一緒に、今まで築きあげてきた自分の概念をも、俺はあの侍にへし折られてしまった。


小さな舌打ちを洩らし懐に手を伸ばすと、空の煙草の箱がぐしゃりと潰れた。

辺りを見回し、何やら書類を抱え雑用をこなしている自分に忠実な部下を見つけると、通り過ぎ様にぽんと肩を叩く。

「山崎、煙草」

山崎は呆れた様な表情をすると、俺をゆっくりと見返した。

「いや、煙草って何ですか。主語だけで会話するの止めてくれません」

「買ってこい」

「次からその二つ合体させてから言ってくれたら嬉しいんですけど」

文句を溢した山崎に更に苛立ちが増し(というか、山崎という存在自体に苛立つ)舌打ちを洩らし睨みつけると、山崎は小さな悲鳴をあげ後退りをしている。

「俺に指図すんな、つーか肯定以外の言葉を発するな。さっさと煙草買って来い、一分以内だ」

「いや、見て分かりませんか?俺どう見てもいま忙し…」

「いーち、にー」

山崎の言葉に耳を傾ける事もせずにカウントを口にしながら鞘から刀を抜き始めると、山崎は顔を真っ青にして何やらたじろいでいる。

「職権濫用」

「あ?」

その声に振り向けば、職務中である筈のもう一人の部下がさもつまらなさそうに腕を組む姿があった。

「職務に勤しむ部下をパシるたァ副長としてあるまじき行為ですぜ、土方さん」

「なら職務時間にも関わらず昼過ぎに起きてきた部下ならパシっていいんだろうな、つーか斬っていいか?」

そんな言葉に欠伸を洩らし首を傾げる総悟に刀を抜き終えると、隙をついた従順な筈の部下は、書類を抱えながら今まで見た事ないような速さで廊下を駆け出し逃げて行った。

「クソ、山崎の野郎…」

「せっかくの非番なんだから、煙草ぐれェ自分で買いにいきゃァいいだろィ」

総悟は額につけたままだった馴染みのアイマスクを外して大きな伸びをすると、そろそろ仕事でもするか…と呟き、またさもつまらなそうにスカーフを締め直している。

「…チッ、仕事を舐めやがって」

くるりと踵を返し刀を鞘に納めると、気が進まないままに草履に足を入れた。

(…煙草買って、適当にぶらつくか)

苛立ちより焦燥感が勝るというのは、どういう事だろう。

気がつけばあの憎らしい銀髪頭が、自分の内側を締めているなんて。


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