お題
□こんなの恋じゃないのに
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あの人はいつものように女に振られ、頬に大きな青痣を作って、それでも何故か誇らしげな表情を浮かべながら帰ってきた。
俺はいつものように呆れ顔を浮かべ、大きなため息をつくと、馬鹿だなあと呟いて自分の気持ちを押し殺した。
いつもと変わらない、いつもの日常。
「でもさ、嫌い嫌いの好きのうちって言うじゃん。これって俺的に脈ありだと思うんだけど、トシはどう思う?」
「それが愛情表現の裏返しに見えるか?俺的に殺意以外の何ものにも見えない」
「でも殺したいほど何とやら、みたいな」
「まあそういう考えもあるか」
「お妙さんは不器用な人なんだろうな」
「そうかもな」
そう言って小さく笑ってみせた。
しっかり笑えている分、俺は器用な方だ。
「でも、俺はそんなお妙さんが好きなんだよね」
近藤さんが右頬に出来た青痣に触れると、
「だろうよ」
そう呟いて、短くなった煙草を灰皿に押し付けた。
自分の気持ちを一緒に押し潰すように。