MY NOVEL

□御曹司ラブ!?1
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西條伊月 (さいじょう いつき)


玄関先で「行ってきます」と言えば、可愛い奥さんが「行ってらっしゃいあなたv」と笑顔で返してくれる…
これが一般のラブラブ新婚夫婦。
だけど、俺とあいつの場合は違う。
そんな風にイチャイチャすることなんか一切無いし、しかも俺の恋人…孝雪は…男だ。
そう、俺と孝雪−−毎日パソコンと睨み合いながら延々とキーボードを叩き、黒髪を掻き毟るこの男−−は2ヶ月前、お互いの西條家、柳澤家から飛び出した。つまり…その…駆け落ちだ。
元々西條家と柳澤家は犬猿の中で、俺と孝雪が同じエスカレート式の学校にいられたこと自体奇跡だと思う。
それなのに、好きになるなんて…
自分達の複雑な状況を改めて頭の中で整理している内に、段々と気持ちが暗くなっていった。そもそも、先に告白したのは俺だ。孝雪はそれに答えてくれただけで、あいつの本当の気持ちは分からない。もしかしたら俺に同情して付き合ってくれただけかもしれない。本当は俺の事なんかなんとも思っていないかもしれない。孝雪を疑いたくはないけど、あいつは何も言ってくれないし、今の俺は真実を確かめる術を知らない。益々マイナス思考になる中、孝雪の声に現実に引き戻された。

「おぅ、行ってらっしゃい。今夜夕飯何?」パソコンに向かって発せられた言葉。そして、いつも通り、キーボードに忙しなく指を打ち付けながらの見送り。最初は腹立たしかったが、最近はもう慣れてきた。
「…お前の好きなマカロニグラタン。多分5時頃帰ってくる。じゃ…行ってきます。」
いつもの事とは言え、孝雪が玄関に顔を出さない事に少ししょげながら銀色のドアノブに手を伸ばす。ドアノブのすべらかな表面に指先が触れた瞬間、背後から二本の腕が伸びてきて、片方は俺の顎を掴み、もう片方は腰へ回された。顎を掴んだ大きな手に顔を進行方向と真逆に向かされ首に微かな痛みが走った。
「…ふ」
強引に合わせられた唇から思わず甘い吐息が零れる。無意識に閉じてしまった瞼をゆっくり開くと、そこには見知った顔があった。俺の唇を塞いだのは先程までリビングにいた筈の孝雪だった。突然の事で、ただぼーっと見つめていると、孝雪のいつになく真剣な瞳が心配そうに揺れた。
「伊月、ちゃんと帰ってこいよ」
「え?……うん」
何で今日に限ってそんな事言うんだろう?そんな疑問を抱きながらも、たいして気にもとめず、俺は知人に紹介されたバイト先へと足を進める。本当はさっさと仕事を終えて孝雪が待つ家へ直行したいところだけど、生憎、バイト一つでは収入が少なすぎる為幾つも掛け持っていて、必然的に遅くまで働く事になってしまう。そんな事ならば早めにあがれる給料のいい仕事を探せばいいのだけど、帰りを遅くしてまでバイトに拘るのには理由がある。やはり、駆け落ちした事はばれていないにせよ、今家では行方不明同然の扱いをされているに違いないので正社員になるのは非常に危険だ。
その上相手があの柳澤孝雪だとばれたら…
二人とも命は無いだろう。

俺は恐ろしい考えに唾を飲んだ。そして、小さく震える手に気付かないフリをして片手に提げたスーパーの袋を強く握り締めた。袋の中には夕飯のマカロニグラタンの具材が入っている。材料も買ったし、後は電車が来るのを待つだけだ。
ところが、此処は都心から離れた場所にある為、電車は20分に一本しか来ない。
今から帰るとすると着くのは丁度4時45分くらいだろう。朝約束した5時には余裕で間に合う。「…ふぅ」俺は安堵の溜め息を漏らすと閑散としたホームを見渡し、再び物思いに耽る。

まさかこんなにあっさり駆け落ちできるとは…西條家も柳澤家も本当に、孝雪の言うように、俺たちを人形としか見ていないのかもしれない。
そんな人形だった俺に命を吹き込んでくれたのが孝雪だ。
同じ御曹司なのに俺とはいえ正反対に孝雪は自由気ままで最初はとても恨めしかった。なのに、孝雪は威嚇オーラを出しまくってた俺に躊躇いもせず入ってきた。
更には体まで繋ぐ関係に…
そんなことを考えていたら、不意に空いている腕を誰かに捕まれた。
振り返るとそこには漆黒の短髪に真っ青な瞳を持つお父さんの秘書の直崎信也が立っていた。
「探しましたよ、伊月坊ちゃん。茶髪にしてもあなたの顔はわかります。」
俺は驚くしかなかった。まさか信也が自分を見つけるためにこんなところまで来るとは思いもしなかったからだ。西條家はそこまで傾いているのか?こんな名ばかりの俺を必要とするほど…。
色んな思考がぐるぐると俺の中で回っている間に電車はホームに来てしまい、発車のベルが響いた。
俺は信也の腕を振り払いなんとか電車に乗り込んだ。
その時背後から予想だにしなかった囁きが投げ掛けられた。
「あの柳澤家の孝雪様と暮らしているのでしょう?」

動揺を隠しきれず、俺の体は強張った。
信也は乗って来ない。
ばれてる。
そう思った瞬間背中から大量の冷や汗が吹き出るのを感じた。
どうしようどうしようどうしよう
頭の中がぐちゃぐちゃになって壊れそうになったころには、電車はもう駅に着いていた。
重い足取りで家路を辿る。家に帰りたくない。孝雪に、会いたくない。
家と言っても元は孝雪の独り暮らし用の一軒家のうちの1つだ。俺が当たり前のように“帰って”いい場所なのだろうか。
とは言え、既に習慣のようなもので、気付けば家の前にたどり着いていて、慣れた手付きで鍵でドアを開けていた。
「遅い。今何時だと思ってる?」
ドアを開けると不機嫌を露わにした孝雪が待っていた。言われて初めて時計を見ると、もう5時30分は過ぎていた。
「あっ…ごめん今から夕飯つくる。」
俺は靴を脱ぎ捨てキッチンへ急いだ。ビニール袋から材料を出し、料理の準備を始める。すると孝雪は付いてきて、俺を問いただしてきた。
「おぃ、伊月。どうして遅くなったんだ?お前らしくない。」
「あ…うん…考え事してたらなんか遅くなっちゃっただけ。」
これは嘘じゃない。
「作ってるからリビングで待ってて。できたら呼ぶし。」
軽くはぐらかしながら玉葱を切る。
ああ、これで俺と孝雪は終わるんだ…
そう思うと涙が出てきた。
顔が上げられない。
大丈夫、孝雪はリビングにいるはず。
と、不意に目尻に口づけをされた。
「へ…?な…何すんだよ! 」驚いて自分が泣いていたことも忘れて孝雪に怒鳴った。
「お前が泣いていたから」真顔で言う孝雪に思わず顔を逸らしてしまう。
「た…玉葱切ってたからだよ。別に大したことじゃないからさ。リビングにいて良いよ。」
そっぽを向くと顎を捕まれ壁に背中を押し付けられる。
「ふ…ん…はぁ」
孝雪の舌が俺のそれに絡み付いて離れようとしない。息も出来ない程に何度も噛みつくようなキスをされる。俺はそれだけで感じてしまい、次第に腰から力が抜けて立っていられなくなった。しかし孝雪はすっかり腰砕けになった俺の体を支えながらキスを続ける。ふと、孝雪の唇が名残惜しそうに離れていった。
「嘘つき」
溜め息混じりにそう囁かれた途端、ふわりと体が浮いた。
気付けば、所謂お姫様抱っこ状態になっていた。いつもなら抵抗できたが、さっきのキスでもうどこにも力が入らない為、もうされるがままだ。
孝雪は俺を抱きかかえたまま二階に上がり、ゆっくりと俺の身体をベッドへ降ろした。
キスだけで服の上からでも確認出来るほど勃ち上がってしまっていた俺のを孝雪の手がきつく握る。
「あぁっ…!」
孝雪は慣れた手付きで俺のベルトを取り外すと蜜をたらし始めているそれを解放した。孝雪は、羞恥と快楽でもう溶けそうになっている俺の腕を掴み、手首をベッドの支柱にベルトで縛り付けることで封じた。
「話すまで外さないよ。」意地悪く言うと、孝雪はボタンが外れるのも気にせず乱暴に俺の服を剥ぎ取った。
「あぁっ…や…ん…っ」
孝雪の唇が俺のそれからどんどん下に下り俺の体に沢山跡を残して行く。そして、目的のものへとたどり着くと、すっかりかたくなったそれを口に含んで激しい愛撫を始めた。
「だ…だめ…イきそう…っ」
そう訴えると、孝雪は愛撫をやめ、濡れそぼったそれの先端に軽く爪を立てた。
「イきたければ言うんだな。そしたらここに…」
孝雪はいつも貫いている俺の穴を人差し指で撫でる。
「ひゃっ」
「俺のを注いでイかせてやるよ」
それでも俺は頑なに首を横に振る。孝雪にだけは話せない。孝雪が大切だから。俺の為に気を使って欲しくないから。
「じゃ…こうするしかないな…」
当然の事ながら、俺の気持ちは伝わる事はなく、孝雪はおもむろに透明な細く長いチューブを取り出した。そして俺の前の穴と後ろ穴に両端を挿入する。
「あぁっ…!」
鋭い痛みが俺の全身を駆け抜け、衝撃で出してしまった蜜が俺の蕾に入る。
「自分で自分を汚すのはどんな気分だ?」
孝雪は意地の悪い笑みを浮かべて俺への愛撫を再開する。
こんなはずじゃなかったのに。
孝雪はいつも言いたくないことがあれば話さなくて良いって言うのに…
涙でぼやけた視界にただ一つ、孝雪の辛そうに歪んだ顔だけが鮮明に見えた。
孝雪…?
意識が朦朧とするなか、その顔が幻か現実か分からなくなっていく。
最後のチューブを抜き取られ、孝雪の昂りが強引に侵入してきて、俺の奥に跡をつける。
「いゃぁ…あぁっ…!」
その後、孝雪は激しく律動しはじめて、俺は頭の中が真っ白になり、意識を手放した。





柳澤孝雪 (やなぎざわ たかゆき)


ふぅー
煙草の煙が上がり伊月の髪にかかる。
俺はベッドの横に座りそのさらさらとした茶髪を手ですく。
別に俺は毎日パソコンの前で何もしていないわけではない。
伊月には隠しているが、西條家の直崎が伊月を探している事も、その直崎に俺と暮らしているのがばれているのも知っている。というのも伊月の服すべてに盗聴機が付いているし、俺のSPの報告から直崎の存在も手にとるようにわかる。
それでも俺は伊月の口から事実を告げて欲しかった頼って欲しかったし、きっと隠しているのはその直崎という男を守るためかもしれない。
そんな思いから伊月に彼が俺の物である事を自覚させ、事実を吐かせる為にあんな事をしてしまった。
ベッドを見下ろすと、安眠から程遠い顔をしながら寝ている伊月が目に入り、罪悪感を感じる。
ブーっブー
携帯がなる。
柳澤グループの情報屋、蘭からだった。
「はぁーい若。直崎信也の情報キャッチしたよ。」
蘭は俺より5つ若い21才の女で情報屋としては一人前なんだが…
「で、何が見つかった?」
「その前に某伊月先輩の様子は?」そう蘭は俺と伊月の関係を知る数少ない人の一人だ。
しかも学校の後輩だったからずっとだ。
「直崎と接触があったようだがしゃべらない。今は寝ている。」
「うっわ。若それで嫉妬して強姦。なんてことしてませんよね。」
ご名答と言いたいところだが無言で済ませた。
それを蘭は肯定としてとったらしい。
「えっ…マジッすか。なるほど…」
これ以上無駄話をしていられないので、本題に入る。
「で、直崎信也のことだが…」
「あっ…ごめんなさい。えっと」
パラパラという音が携帯越しに聞こえる。
「彼偽名使って西條家に勤めてて、あれこれ15年間西條家で働いています。しかも西條家の事故により独り身になったあと15の時からのようです。何かと西條家に復讐の念がありそうですよ。しかも西條家に揉み消されていますが、19の時に年下の男を強姦したことがあるそうです。…伊月先輩大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ俺が守る。」
「若、それを伊月先輩に言ってこそ意味の成す言葉なんですよ。」と言われた後電話が切れる。
「伊月にか」
俺はベルトによって痣が付いてしまった手首を持ち上げ痣にキスをする。
「必ず守ってやる。」
 

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