MY NOVEL

□御曹司ラブ!?3
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柳澤孝雪


会社から出る俺を蘭が急いで追いかける。
「若…」
息を上げながら紙を差し出す。
「はぁ…私も…行きます。」
膝に手をつきながら俺を見上げる。顔は真剣だ。
「わかった。」
会社の前でタクシーを捕まえる。
伊月が監禁されているのは新宿のとある廃ビルだった。
「どうして伊月の位置がわかったんだ?」
「事前に直崎信也の髪や服、そして車等に発信器を付けておきました。盗聴器の半分の多きさですから、見つかりませんでした。」
真剣な蘭からはいつもの砕けた感じが一切出てこない。
「そうか…」
その後蘭はまったく口を開かなかった。
夜の新宿は眩しい光と影が入り組んでいる。その影の方に今伊月がいるんだ…
「伊月…」

タクシーを出てすぐビルから男の悲鳴が聞こえる
伊月…!
今の声は伊月ではないが伊月に何かあったのか!
壊れかけている階段をかけのぼる。
バン
「伊月!」
ドアを開けて部屋の中を覗くと伊月の影は無く、複数の黒ずくめの男と直崎が居た。
黒ずくめの男どもを殴り倒し、直崎の胸ぐらを掴む
「伊月は…伊月はどこだ!」
怯えた目で直崎はベランダの方を見て震える腕を上げベランダに向けて人差し指を指す。
「あ…まさ…か…あんな…ことする…なんて」直崎は震えながらも喋る。
まさか…!
直崎をその場に放り投げてベランダの方へ行き下を覗く。
その瞬間自分の世界が足の下から崩壊していく。
「…伊月!」
下には真っ赤な薔薇の様に赤く染まった伊月だった。
「蘭!急いで救急車を呼べ!」
「は…はい!」
俺は階段を降り伊月の元へ行く。
「伊月!伊月!」
地面に倒れている伊月に呼び掛けるが返事がない。
伊月の顔は血で汚れ、目は半開きだった。
口は端から血を流しながらも微笑んでいた。
頬にはまだ涙が残っていてそれを俺の手で拭う。
脈を見ると辛うじて生きていた。
「伊月!伊月!まだ逝くなよ!」
伊月の血だらけの手をとり両手で包む。
頬に冷たい涙が流れる。
涙を流すなんて何年ぶりだろう。
「たか…ゆき」
伊月の口が動く。
「なんだ?」
目が半開きのままこちらを向く。
「愛して…ます…孝…ゆ…き」
そういうと伊月は意識を手放した。
「伊月?伊月?伊月!」
救急車が到着して伊月を入れる。
俺も一緒に乗る。
神なんて信じないが、もし信じて伊月が帰ってくるなら信じます。
伊月を返してください。
暗い新宿の街をひとつの救急車が駆け抜ける。





柳澤孝雪


ピ……ピ……ピ……
伊月の心拍数は非常に弱くあと少しで消えそうだ。
「伊月!…伊月!しっかりしろ!」
救急車の中の医師や看護婦が作業をするなか俺は必死に伊月に呼び掛ける。
いなくなるなお前がいなくなったら俺はどうすればいいんだよ?
親父からはお前との結婚話もあったんだぞ!お前はそれでも行くつもりか?!
心の中で伊月に向かって叫ぶ。
短い時間の後救急車は病院に着き伊月はすぐに救急治療室に運ばれる。
治療室のドアの上に手術中と付いた
伊月…
チクタクチクタク…ゴーン
俺の目の前の壁にある時計が10時を告げる。手術中のマークはなくなったが、どうなったんだろう?長椅子に座り項垂れていると看護婦が息を切らしながらこちらへ来る。
「急いで来てください!今危篤状態なんですよ!」
二人で廊下を走り、伊月の元へ行く。
ベッドの上の伊月は真っ白な顔をしていて、口には酸素マスクが付いていた。
「伊月…」
呼び掛けるとまるでそれが聞こえたかのように目を少し開けてこちらを向く。
伊月は…一瞬弱くだが、笑ったように見えた。
次の瞬間その目が閉じられる。
ピーーーー。
「伊月!」
横に居た医師がすぐに電気ショックを与える。
耐えられなくなって俺はついに叫んでしまった。
「帰ってこい馬鹿野郎ー!」
 

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