NormalLove


□ソラの初恋
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彼女の視界に入りたくて
僕は空を飛んだんだ
貴方の空気に触れたくて
僕は風をきったんだ
いつも空を見つめる君に
どこか遠くを見据える瞳に
哀しみが宿らぬよう
僕は空を翔ける


いつもの公園、いつもの時間、いつものベンチに彼女は居た。
「何かいるの?」
そう問う僕に、君は笑っていった。
「何も」
「じゃあ何を見ているの?」
「空を」
「空を?」
「うん。ただ空を見てただけ」
そういって君は視線を空に戻した。
「面白い?」
「うん。目を離すとすぐに景色変わっちゃうし、いろんな雲がいて面白い。それになんか安心するんだよね」
「安心?」
「そう。なんかよくわかんないけど…安心する」
「そっか」
「あれ、そういえばあなた誰??」
「僕はソラ。空を翔ぶって書いて空翔」
「空翔。素敵な名前だね。私はキセキ。希望の跡って書いて希跡」
僕らは笑うと、視線を空に変え隣に並んで腰かけた。


何分くらいたっただろう。
気付けば日陰の中にいた顔が眩しい太陽に照らされている。
彼女は飽きる事なくそこに居た。
時折空に向けた顔を下ろして、そよ風や日陰の気持ち良さ、そして空気を愛しそうに感じている。
僕が彼女を見ていると、彼女はおもむろに口を開いた。
「いないなぁ…」
「何が?」
「…鳥」
「鳥??」
「そう、真っ白な鳥」
「真っ白な…」
「私ここでいつも部活してる友達を待ってるの。それで日課になったひなたぼっこの時に、その鳥を探しているの」
「何で?」
「…友達、だから」
僕の質問に、彼女はぽつりと呟いた。
「友達?」
彼女はうつ向き、コクリと頷く。
「その鳥ね、一ヶ月ちょっと前くらいに怪我してこのベンチにいたの」
僕は身震いした。
「ここに…?」
「うん。だから家に連れて帰って手当てして、元気になってからこの公園に還したの」
「ベンチにいた…怪我した白い鳥」
「それから、天気の日は毎日ここで会って遊んでた」
彼女は笑うと、また顔を暗くした。
「でも一昨日から姿が見えなくて…。私心配なの。また怪我でもしてるんじゃないかって」
彼女は再び空を見上げた。
少しばかり寂しそうに。
「とっても大切な友達なの。私が苦しい時や泣きたい時、ずっと一緒にいてくれた。あの子には、なんでもいえたの」
彼女の言葉に、僕は口を開いた。
「…大丈夫だよ」
「え?」
「その鳥は怪我なんかしてない。もうここに来る事はないだろうけど、いつも君にありがとうっていってるよ」
僕は不思議そうに見返す彼女の瞳を見据えていった。
けれど、きょとんとしていた彼女は突然勢い良く立ち上がった。
「いい加減な事いわないで!もうここに来ないだなんて…そんなの信じない!!」
「いや、ただ僕は」
「何にも知らないくせに知ったような口聞かないでよ!」
僕はうつ向いた。
ただ僕は感謝してる、君が大好きだって…伝えたかっただけなのに。
彼女は乱暴にベンチに座り直した。
僕は居心地が悪いながらもその場から動かなかった。
それから僕らは、夕日が照らすまで空を眺め続けた。
二度と来ない鳥を探して。


「希跡ー!遅くなってごめん!!」
気まずい空気を吹き飛ばして、彼女の友達がやって来た。
「るいちゃん。お疲れ様、帰ろっか」
ベンチから立ち上がる彼女。
このままでは、何も気持ちを伝えられないままになってしまう。
それじゃ…意味がない。
「…あのさ、これだけはいわせて」
僕の声に、彼女はただ立ち止まった。
「鳥は本当に君に感謝してる。そして、誰よりも君の事が大好きだった」
僕は一心に彼女を見つめた。
信じてもらいたいから。
本当の事だから。
「…ありがとう」
彼女は笑った。
とても嬉しそうに。
「怒鳴ってごめんね。それじゃ、またね!」
彼女が笑って僕に手を振る。
それだけでなんだか僕まで嬉しくなって、この喜びが消える前にと慌てて立ち上がった。
「それじゃ、さよなら!…希跡」
「またね!!空翔」
彼女の言葉に、僕は返事を返さなかった。
「ねぇ、あの子…」
「どうしたのるいちゃん。また何か見えた?幽霊??」
「いやなんか今、あの子の背中に、真っ白な羽根がみえた気が…」
「真っ白な羽…?」


神様、ありがとう。
僕の願いを聞いてくれて。
希跡、ありがとう。
怪我した僕を助けてくれて。
希跡、いつも笑ってる君が苦しい時、一緒にいれて嬉しかった。
君が僕に悩みをいってくれて、嬉しかった。
君の力になれて良かった。
僕は姿を失うけれど、見上げればいつもそこにいるよ。
君が見上げる空のどこかに。


空翔は光に包まれて消えた。
空に、真っ白な羽根を散らばせて。


「今日もいないね、あの鳥」
「…」
「もう落ち込まないの!きっと向こうも元気だって!!」
るいが気を使うが、希跡は空を見上げて笑った。
「あれ、希跡?」
「あのねるいちゃん。私なんでかもう寂しくないの。多分空翔のおかげ」
るいは不思議そうに希跡を見た。
「空翔ってあの男の子の事だよね??あれっきり、あの子も姿見せないけど…?」
「うん。私ね、あの子がいなくなって寂しかった。でもね、今はもう寂しくないの。…空翔に会ったから」
希跡はるいに顔を向けた。
「あら?希跡の初恋に試練か??」
「空翔はそんなんじゃないもん!第一何よ初恋って!!」
「だって希跡、あの鳥の事好きだったでしょう?私の知る限り、あの子が希跡の初恋ね」
慌てる希跡を、るいが意地悪そうに見て笑う。
「そんな希跡の前に現れた新たな恋の相手!」
「違うったら!…ただ空翔といると、あの子といるような気持ちになれるから…安心できるの。ただそれだけ」
「ふ〜ん。で?その空翔くんも来なくなっちゃった貴方の心境は??」
「寂しくないよ。なんでかわかんないけど…空を見てると、あの子と空翔が側にいるような気がするから」
希跡は笑った。
「私、もっと好きになった」
希跡は再び空を見上げる。
「私、ソラが大好き!!」


― END ―


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