短 編

□切 望
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藍染の投獄を知らされたのは、洞窟での鍛練の合間に戻った執務室。
ひらひらと普段と変わらずに舞い降りた地獄蝶に吹き込まれた雀部の声音から。


動く度にふわりと翻る羽織をそのままに、日番谷は現世の建物へと降りていた。


現在の重霊地、空座町。
有り難いことに陽は落ち、見咎められる懸念が格段に下がった夜空を蹴り移動する。


涅から預かった書簡を懐に、降り立った場所は浦原商店。
藍染を封印した元十二番隊隊長が現世で住まう場所だった。


「隊長格を使うとはいい根性だ」

「貴方なら上手く立ち回って下さると、判っていますからねぇ」


出迎えた浦原が頭を下げつつ、日番谷の前に茶を出した。


「構わねぇさ。俺も、動いていた方がいいからな。涅からだ」


薄い紙を浦原へ手渡し、出された湯飲み茶碗へと手を延ばす。


「有難うございます。そちらの復興はどうですか?」

「ぼちぼちだ。見た目はな」


何も知らされてはいない三席以下の死神に比べ、上位死神達の痛手は大きかった。
それは日番谷も例外ではない。
伸びた背筋とは裏腹に表情は冴えず、浦原は小さく息を吐いた。


「お会いになりますか?」


思考の波に沈みかけた日番谷を、浦原は言葉ひとつで浮上させる。


「………だが」

「ここは尸魂界ではありませんよ」


さぁ、と浦原に軽く手を取られ日番谷は躊躇いながらも立ち上がる。
気持ちが定まらないままに案内され、気が付けば扉一枚の所に立っていた。


「滅する気があるなら、四十六室はとっくに隠密機動をここに寄越してます」

「確かにそうだ」

「では、ごゆっくり」


浦原の背中が見えなくなるまで見送り、障子にそっと指先を掛ける。


涅に呼び出された数刻前。
十二番隊預かりになっている雛森の症状に何かあったのかと日番谷は考えていた。
慌てて出向いた十二番隊では茶も出されず、面倒臭いとばかりに書簡を押し付けられ「お使い」を頼まれた。


『使いの駄賃か…、餓鬼じゃあるまいし』


滑りよく開いた障子の向こう。


「……来てくれたんやね」


畳部屋の真ん中。
敷かれた布団に彼は横たわっていた。





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