短 編

□生けるもの
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現世のモノを尸魂界に持ち込むのは、よくあること。


在住任務や討伐に下りた死神だったり。
現世に興味を持つ奇特な貴族だったり。
時折、現世に下りる上位死神だったり。


上位に座する死神が、十番隊の執務室にやってきたのは蝉が鳴き始めた頃だった。


「―――――で、何の用だ?」


仕事を半ば強引に中断され、日番谷の眉間に刻まれた皺は二割増しである。


「相変わらずだね、日番谷君」

「日番谷隊長だって云ってんだろ」

「私より大きくないのに、隊長さんだもんねぇ……。まだ信じられないよ」


雛森の言葉に、背の高さは関係ないのでは?と言葉にしかけ松本は飲み込む。
隊首の疲れたような諦め顔に、本題に入った方がいいのだと判断した。


「あら、あたしから見れば申し分ない隊首なんだけど?」

「……すみません、つい」


ぺろりと小さく舌を出す雛森も、松本と同じ他隊の副隊長である。

藍染に幼馴染みがいたら、雛森はどんな対応をするのだろう。
つい意地の悪い考えが、お茶を出しながらも松本の脳裏をちらりと過ぎる。


「用がねぇなら帰れ」

「まぁ、いいじゃないですか。そろそろ昼の鐘も鳴りますし」

「まだ昼じゃねぇ」


機嫌の悪い日番谷の前に気に入りの湯飲みを置き、向かいに座る。


「隊長ったら……で、どうしたの?ここに来るの久しぶりじゃない雛森」


隣に座る日番谷の幼馴染みで可愛い後輩に、松本は話を振った。


「実は、さっきまで視察も兼ねて現世に出てたんです」

「えぇ―っ、いいなぁ……あたしも呼んでくれれば一緒に行ったのにぃ」


菓子鉢に延ばしていた手を止め、松本は雛森を勢いよく見返す。


「松本、雛森は仕事だ」

「解ってますよぉ、隊長。羨ましいって、あたしの気持ちを表現してみたんです」

「その前に申請書類の段階で許可下りませんよ、乱菊さん」


相変わらずな十番隊の二人のやりとりに、雛森は笑みを零す。


「雛森まで……。で、現世任務のコは元気だった?」

「それはもう。交代の時期で面談も仕事のひとつだったんですけど……」


現世話が目的ではなかったようで、日番谷と松本は首を傾げた。





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