短 編

□親愛
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…― 尸魂界・瀞霊挺 ―…


残暑が厳しいだろうとの予想は微妙に外れ、朝夕はとても過ごしやすい日々が続いていた。時折吹く風はとても心地良く。

氷雪系の斬魄刀を持つ死神達には何かと喜ばしい話でもあった。


―… 十番隊・執務室 …―


のんびりと遊びに来た子供のように、書類一枚だけを持ち現れた市丸に、呆れにも似た声を日番谷は上げた。


「…なんで、お前が来るんだ?…市丸」


ちらりと来訪者を確認をしたかと思うと、即座に視線は書類に落ち、筆を持つ手も書類を捌く手も止まらず動く。


「なんで…て書類、持ってきたんやけど?これ、見えてへんの?」


ほらほらと、書類を日番谷の目前にちらつかせる。


「わざわざ隊長自らすまんな。そこに置いてくれ」


机の端を筆先で行儀悪く指し示し、何事もなく書きかけの書類に筆を下ろす。


「用は済んだだろう?自分の隊に戻れ」

「えー。折角、来たのに…ちょっとくらいえぇやん。それにボク、もう終いや」


応接用の長椅子に遠慮無く座り、後方の日番谷を背もたれに懐きながら眺め見る。


「悪いが俺は忙しい」

「せやね。こんな時間まで仕事なんて珍しいし…」


終業時刻は既に過ぎており、陽は西にかなり傾き、明かりがそろそろ必要になるだろう。


「わかってんなら帰れ」

「乱菊は?」


おっとりとした市丸の声音に、日番谷は深呼吸にも似た溜息と、諦めにも似た声音で返す。


「現在逃亡中だ。今日は戻っては来ねぇだろうな」

「冬が真面目に仕事するからやろ?」

「その日に片付けなきゃ、俺の気が済まねぇんだよ。それに…判ってるから来たんだろうが…違うのか?」


市丸は書類の配達程度で他隊へ足は伸ばさない。特に日番谷が預かる十番隊に姿を見せる事など、就任したあの日を数えて片手で足りる程に少なかった。





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