短 編
□依存と主従と情愛と
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約二ヶ月ぶりに訪れた日番谷の私室。
久しぶりだというのに、いつもと変わらない態度で出迎えられ、市丸は肩を落としていた。
『抱き着いてはくれんやろうと思とったけど、なんや淋しいなァ』
慣れた部屋に足を進め、新しく増えた山に目が止まる。
部屋の隅には見慣れない本が山と積まれていた。
『…今度は何に興味持ったんやろ?』
市丸もそうだが、日番谷も私物は少ない。
物欲もさしてあるわけではない。
「……相変わらず、本が好きやね」
日番谷の場合、本だけは底が抜けるのではないかと心配する程の量を持っていた。
「あ、それ汚すなよ。総隊長からの借り物だからな」
盆にふたつの湯飲みを乗せて、姿を見せた日番谷の口から、一刻前まで顔を突き合わせていた相手の名前が飛び出す。
「キミ、総隊長さんからも本、借りてるんや?」
前は朽木隊長の蔵書やったなぁ、と湯飲みを受け取り、庭に面した障子を開く。
「まぁ、ちょっとした調べ物だ。それより、お前はこんなとこに居ていいのか?」
座布団を市丸に手渡しながら、日番谷も隣に腰を降ろす。
「えぇんよ。ボクがおらん方が皆、楽しめるやろ」
二ヶ月の間、三番隊は討伐の任に就いており、帰還したのは数刻前だった。
留守番の隊士達が、無事の帰還と労いを兼ねて隊舎で酒宴を用意してくれており。
市丸は顔を出した程度で一番隊へ報告に向かい、そのまま日番谷の私室に上がり込んでいた。
「ボクはこうして、冬とゆっくりしてる方がえぇ」
風呂上がりか、下りた日番谷の髪を、くしゃりと撫でる。
「……予定は半月だったんだろう」
討伐は半月を予定していた。
ひと月経過した後、連絡が途絶え数日後には捜索隊が出立する筈だったのだ。
「予定外のことがあってな。誰も欠けんと無事に帰還してるんやし、気にすることやないよ、冬」
いつもは人ひとり分の間を空けて座る彼。それが今は体温が感じられるくらい直ぐ隣にいる。
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