短 編

□白瑩の望み
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我の記憶―――。


主から解き放たれた時、全て我の手元から零れ落ちてしまっていた。


他の斬魄刀達は、そんな我に気遣うことなく接してくれる。


纏わり付かれるのは多少、苦手ではあったが相手にしなければ良いだけのこと。


行く先の無い我には、ここにしか在り処は無かった。


いつかはここから踏み出さねばならぬ。


主を見つけ出さなくてはならぬ。


我の在り処はそこにあるのだから。





――…お前の名は氷輪丸だ。…――





他人に聞かされる己の名程、真実味の無いものはない。





――…お前の主、日番谷冬獅郎だ。…――





唐突に現れ目前に降り立ったのは子供。


月の光で輝く白銀の髪と鮮やかな碧翠の瞳を持った小さな子供。


その姿に心の奥底の何かが揺さぶられるが、それが何か我にはわからなかった。


姿が子供だと云うとだけで、前に立つ子供を頭から否定した。


真実を戯れ事だと聞く耳を持たなかった。


全てを切って捨てた我を見た子供の表情は今も忘れない。


証を見せろと云った我に、持てる全てを使い向かってきてくれた。


我の魂が求めるのは、主の傍ら。


強大な力を受け止めるだけの持ち主が今まで見つからなかった。


力があるが故に、常に付き纏う孤独。


そんな我の目前で、我の力を自在に使ってみせた子供。


ただただ、驚かされた。


否定しつつも、歓喜し沸き上がる感情に安堵していたのだ。





必死に叫ぶ声音に。





精一杯に伸ばされた小さな手に。





我の名前を懸命に呼ぶ、その姿に。





綺麗な瞳を細め、見せた柔らかい笑顔に。





我は助けられた。





その代償は、決して軽いものでは無く。





今も主は癒しの為に眠りについたままだ。





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