短 編

□真綿の檻
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しん、と凍てつく空気が寒さを増大させ、吐き出す息を白く染め上げる。

冬に強く、氷雪系の斬魄刀を所持する日番谷には特に寒さは感じない。
ひやりとした床も、凍てついた空気も、明けを待つ濃紺の空も、どちらかといえば心地良い。

所々に設置された篝火の紅がまだ目立つ回廊を進みながらも、日番谷の表情は厳しいもののどこか浮かないもので。

そもそも地獄蝶が日番谷の自室に訪れたのは、明け六つにもならない時刻だった。

火急であれば他隊も何か動きがある筈だが、それが感じない。


『…極力…内密にしてぇ…ってことか』


己の霊圧を改めて閉じ直すと、足早に山本の待つ一番隊を目指した。





―…一番隊・執務室…―





出迎えてくれたのは副官の雀部ではなく、総隊長直々であり。


「朝早くにすまんのぅ、日番谷隊長」

「いえ、急な召集……何用でしょうか?総隊長」


少しずつ闇が薄れる東の空を眺め見遣る山本の背中を見つめながら、やはり普段と違うことに日番谷は少しだけ片眉を上げた。

こういう時の予感は残念ながら、よく当たるのだ。


「ひとつ、至急の仕事が入っての」


普段ならば雀部が詳細を記した書類を手渡してくれるのだが、その姿は無く。
くるりとこちらに向き直り、山本自ら日番谷に書類を手渡した。


「……」


日番谷が数枚の半紙に目を通し終えたのを見計らい、山本が口を開く。


「すまんな、日番谷」


手渡された書類を整え、日番谷は山本へと差し出す。


「……いえ」


当然のようにそれを受け取ると、それは山本の手の平で瞬く間に燃え上がり、消し炭諸とも跡形も無く消え去った。


「お主には係わり合いの無い事柄じゃが…上はお主を指名しおった」

「釘を刺したいんでしょう」


上、とは当然の如く、中央四十六室のことである。名指した理由も隠れた意図も、この部屋に立つ二人ならば嫌でも解る。


「日番谷」


日番谷の物云いに山本の眉が微かに寄る。


「俺は…一部とはいえ、当事者っすよ」


ご存じでしょう、と碧翠の瞳に好々爺の姿を映し込んだ。





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