短 編
□切 望
3ページ/6ページ
単独ならば自業自得で済ませられる。
誰に迷惑をかけるわけでもなかったから。
だが、あの場は己をさらけ出してはいけない場所だった。
「憤りだけで刀を振るった揚句、他の隊長までも窮地に立たせちまった」
藍染の表情を思い出すだけで、今もざわりと身体の奥底で何かがざわめく。
「せやね」
慰めひとつもない肯定だけの言葉は、今の日番谷には何より有り難い。
「なのに俺は、羽織を脱ぐことも赦されなかった」
総隊長を始め、いつの間にやら招集されていた新しい中央四十六室迄もが日番谷の申し出を事如く却下したのだ。
「卍解ができる死神は希少やし、そんな死神を上は手放さんやろね」
「俺は二度目だ。こんなんじゃ隊首である意味がねぇ」
一度ならずも二度も隊を捨てようとした。
そのつもりだったのだ。
「資格が無いて思うんやったら、その分頑張ったらえぇんと違う?」
「……市丸」
「ボクにはできんかったからなァ」
静かな声音に日番谷は顔を上げた。
内面を悟らせないように振る舞い、永い時を市丸はずっと独りで歩いてきたのだ。
強い男だと知っている。
その同じ分だけ弱いことも。
「悩んで悩んで、その羽織を今は着とる。冬はちゃあんと隊長さんや」
「お前だっ「藍染さん、どうなった?」」
言葉を遮り、銀色の髪の奥から覗く水色の瞳が真っ直ぐに見つめた。
「…………第八監獄に二万年間の投獄だ」
「そら、あかんなぁ」
どういうことだ、と首を傾げる日番谷の前で市丸はゆっくりと身体を起こす。
「起きて大丈夫なのか?」
その動きはぎこちない。
思わず手を延ばしたが、そのまま引き寄せられ市丸の腕の中に閉じ込められた。
「ボク、ちゃんとここで生きていくな」
「あ、当たり前だっ」
「知っとること全部、教えるんがここにおる条件やねん」
その言葉ひとつで秘密裏に取引が行われたのだと知れる。
そこに日番谷が口を挟む余地はない。
口を挟んだところで、何も変わらない。
「……………そうか」
解っているのは、総隊長を含め新旧の十二番隊隊長の二人が動いたのだということだった。
.