短 編
□切 望
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彼、市丸ギンが持っている情報が、それだけ彼等にとって興味深いものなのだろう。
総隊長である山本も知っているからこそ、彼等や日番谷の行動を黙認しているのだ。
理由がどうであれ、市丸は今ここに不安定ながらもここにいる。
日番谷冬獅郎としては喜ばしいことだ。
だが、護廷の隊長職に就く者としては少々複雑だった。
「……あのヒトなぁ、出てきよるで?」
市丸の言葉に日番谷は弾かれたように顔を上げた。
「大人しゅうしてるヒトやあらへん。手はなんぼでもある、冬も解っとるやろ?」
見下ろす瞳は、あの時の方が今よりもっと切なく揺れ動いていたのを覚えている。
ずっと藍染に付き従っていた市丸の言葉はとてつもなく重く響く。
護廷は藍染が大人しく刑罰を受けたままでいるとは考えていない。
市丸の言葉通り、最下層の監獄であろうと脱獄する手立てすら自ら造り出すと予測していた。
「容赦ないヒトやし。死神に未練はあらへんのやけどなぁ」
「けど、なんだ?」
「乱菊やイヅルもそうやけど、冬と離れんのは嫌やし怪我させとうない」
更に肩を引き寄せられ、市丸の表情は全く判らない。
「この手から離れてしもうて諦めた頃にやっと見つけて。せやのに今度はボクから離れて、迎えにも行けんかった」
微かに震える指先に気付き、日番谷は優しい腕の中から抜け出した。
「それでも俺はここにいるぞ」
「うん」
立ち上がった日番谷を見上げる市丸を、今度は日番谷が抱き寄せる。
「そんなことになっても、死なねぇように修業する。怪我くらいは範囲内だ」
真っ直ぐな髪に鼻先を埋めたまま、日番谷は言葉を紡ぐ。
「お前が幼馴染みを守ったように、俺だってアイツも松本も守れるように強くなる」
「うん」
されるがままだった市丸の腕が延び、日番谷の背中に廻る。
「望んだ世界には遠いかもしれねぇが…」
思わず薄い胸元に懐いていた顔を上げると、優しい碧翠色が見下ろしていた。
「…………冬?」
「あんな世界だ。時間も掛かるかもしれねぇ。だが、お前が戻ってもいい、って考えられるくらいには……」
その言葉に、目の前にある肩へと市丸は額を押し付けた。
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