短 編

□生けるもの
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眉尻を下げ言葉がなかなか出てこない雛森に、日番谷は小さく嘆息する。

理由はいくつかあるが、たまにしか姿を見せない雛森。
だが、現れた時は必ず頼み事を持参する。
可愛らしいものから、厄介なものまで様々で日番谷も松本も苦笑するばかりだった。

間違えなく、今回もその類いだと日番谷も松本も予想していた。


「けど、………どうしたの?」


尋ねない訳にも行かず、松本は黙った雛森に先を続けるよう促す。
日番谷に至っては雛森を見据えたままだ。


「………あ、それが」

「うん」


相槌を打つが間が長く、なかなか雛森は言葉にしない。
とうとう仕事を中断され苛々していた日番谷の方が、我慢しきれず口を開く。


「雛森、さっさと云え。云うことは一緒だろうが。俺はお前ほど暇じゃねぇ」

「うるさいなぁ。今から云うとこでしょ」


途端に顔を上げ膨れっ面になる雛森に、日番谷は大袈裟に溜息を吐く。


「で、どうしたの?」


笑いを何とか噛み殺し、松本は二度目の言葉を繰り返した。


「つい、一緒に持ち帰って来ちゃって…」


困り顔で雛森は長机によいしょ、と小さな桶を置いた。


「なあに?」


覗き込むと、中には申し訳程度な水草と朱い小さな魚が泳いでいた。


「……金魚?可愛いわね、小さくて」

「はい。夏祭りで……つい覗いちゃって」


任務から外れた行動が恥ずかしいのか、雛森の語尾がどんどん小さくなる。


「で、このコをここで飼って欲しいの。ダメかな?日番谷君」

「「…………は?」」


雛森の言葉に二人が返したのは、力が抜けた疑問の一文字。


「お前が持ち帰ったんだ、お前が飼えばいいだろうが」


即答した日番谷は流石に付き合いが長いだけのことがある。
松本は桶の中の金魚と雛森を見比べる。


「あんた、金魚の世話くらいできるんじゃないの?執務室に置けばいいじゃない」


涼しいわよぉ、とさりげなく松本は拒否を示してみる。


「冗談じゃねぇ、持って帰れ」

「無理だよ。だってっ」


呆れた日番谷の言葉に、雛森が嫌だとばかりに大声を張り上げた。





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