短 編

□生けるもの
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幼馴染みの喧嘩、というのはこういうものなんだろうかと煎餅をかじり眺める。
松本の場合、市丸と共に暮らした時間はあまり長くはない。
生きることに精一杯だったこともあるが、見ていて微笑ましい。


ここが、職場でなければ―――――だが。


しかも喧嘩の内容が低俗すぎるのではないかと松本は思う。


『今の隊長が素……な訳ないか』


大好きな蕎麦饅頭へ手を延ばしながら、滅多に見られない姿を思い出す。





「……ここで飼えばいいわよ、ねっ」

「やなこった」

「涼しげだって、さっき乱菊さんも云ってたじゃない」

「例えの話だろうが」

「夏はいつもバテてるんだから涼しくていいでしょ?お願いっ」

「押し付けんな。俺は持って帰れと云ってるだろう」

「酷いっ。こんなに頼んでるのに、どうして快く了承してくれないのよっ」

「持って帰ってきたのはてめぇだろうが。俺は関係ねぇよ」





同じ問答を既に数回繰り返していることに、二人は気付いているのだろうか。
更に昼の鐘はとっくに鳴り響いている。


『お腹、減ったなぁ……』

「ともかく、雛森。どうして持って帰りたくないのよ?」


日番谷が雛森に根負けする前に、と松本は口を挟み込んだ。


「……あ」


そもそもの理由を聞かされていない。
日番谷も隊長である以上、多忙なのだ。
理由次第では、受け入れられない。

今まで忙しないほどに動いていた口唇が松本の問い掛けに、ぴたりと止まった。


「理由?んなの決まってんだろうが」


代わりに口を開いたのは松本の前に座っていた日番谷だった。


「たいちょ?」

「任務で下りた現世で、夏祭りなんぞに顔出して持って帰ってきてんだ」


ちょいちょい、と小さな指先が桶を差す。


「それがどうしたんです?あたしなんてしょっちゅう寄り道しますけど」

「お前はな。こいつはそれを藍染に知られたくはねぇんだよ」


なぜか解らない、と首を傾げた松本から、日番谷は雛森へと視線を移す。


「―――――そうだよな?雛森」


にやり、と日番谷の口端が歪んだ。





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