短 編

□生けるもの
6ページ/10ページ






茜色の空が少しずつ紺色に侵食される空を眺めながら、日番谷は縁側に腰掛ける。

自室に立ち寄り着替えるつもりが、市丸に制され持参することになった。

羽織と足袋だけを脱いだ姿は、どう見ても隊長格には見えないだろう。
ぷらぷらと足先を揺らしていると、部屋の奥から市丸の声が届いた。


「冬ぅ〜〜。お風呂できたけど、どないする?」


特別な名で呼ばれるのも漸く聞き慣れ、日番谷の口許にも自然と綻ぶ。
振り返ると楽しそうな声音とは違い、ゆったりとした仕種で姿を見せた。


「さっぱりした方がえぇと思うけど」

「お前が入るなら入る」

「ほな、行こか?」


差し延べられた手の平に小さな手を重ね、日番谷は立ち上がる。


「………熱、篭っとるね」

「自分じゃ、わかんねぇな」


空いた手を眺め、ちらりと市丸を見上げると眉を寄せた顔が見下ろしていた。


「どうした?」

「今からそんなんで、大丈夫なん?」


まだ初夏と呼ばれる時季であり、これから気温はどんどん上がってくる。
市丸も夏は苦手だが日番谷の場合、それ以上に弱かった。
所持する斬魄刀が氷雪系だからか、受ける影響は通常以上らしい。


「………仕方ねぇだろ。鍛えてどうこうなるんなら、とっくにやってる」

「まぁ、そうやけど」


脱衣所に足を踏み入れると湿度が増え、当然の如く蒸し暑かった。
不快な表情を隠しもしない日番谷に、市丸は声を出さずに笑う。


「風呂だって水風呂でいいんだ、俺は」

「あかんよ。夜にゆっくり寝られへんし、気持ちが落ち着かん。ほら、足上げて」

「ん」


しゅるりと腰紐を解き、細い足から袴を抜いてやる。


「睨みつけとるみたいに金魚、眺めとったし………昼寝もしてへんやろ?」


上着も脱がせ籠に軽くたたみ入れてやると、今度は自分の腰帯へと手をかける。


「昼寝は……そういえばしなかったな」


襦袢と下帯を無造作に籠へ投げ込んだ日番谷が、からりと音を立て扉を開く。


「冬、もうちょっと綺麗にならん?」

「洗うからいいだろ?」


籠からはみ出た襦袢を指差すが、日番谷の背中は早々に風呂場へと消えていた。





次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ