短 編

□依存と主従と情愛と
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心配してくれたのだ、と判るだけでも市丸には嬉しいことだった。


「淋しかった?」


市丸の言葉に目を見開いたかと思うと、視線を逸らされた揚句に舌打ちまでされてしまう。


「不様にやられて帰ってくればよかったのに…」


半眼で軽く睨まれ、市丸は頬をかいた。

本当に心配してくれていたのかが怪しいくらいに至極、残念そうに呟かれ、市丸は苦笑いを浮かべるしか無かった。


「期待に応えんで悪いけどそれはないで?ボク、虚になんか負けへんし。それより、総隊長さんに借りてきた本て何やの?」

「……あぁ、あれか」


部屋の隅に置かれた本を日番谷はよいしょ、と市丸の前に山積みした。


座る市丸の前に積まれた背表紙の表題を見ると、斬魄刀に関する物ばかりだった。


「ふぅん、斬魄刀の何が気になるん?」

「たいしたことじゃないんだ」


不本意だ、と少々機嫌の悪そうな表情で日番谷は口を開いた。

発端は、自分の斬魄刀に対する松本の愚痴だった。
揚句に思うままに動かない己の斬魄刀に対し、文句を云い出した。


「あまりの酷い物云いに、斬魄刀が気の毒だったぞ」

「……乱菊らしいなァ」


実力もある松本が、なかなか先に進めない理由もその辺りにあるのだろう。
見れば日番谷の表情も呆れ半分であり、市丸の予想もあながち外れではなさそうだ。


「斬魄刀が俺達の魂を元に作られた半身なら、過去に同じ刀があったのか?死神にも転生があるなら、死んでまた死神になった時に斬魄刀は同じなのか?…ってな」

「…また、そないに難しいこと」


一番上に乗せられた本の表紙を摘みあげ、中身を覗き込む。


「後は斬魄刀がその都度、俺達を選び主を代えてゆくのか」

「なんとなくそれは嫌やなァ。で、何か解ったん?」


パラパラと紙をめくり、興味なさ気に元の位置へと本を戻す。


「いや、借りたまではよかったんだが、なかなか時間がなくてな」


湯飲みから立ち上る湯気を眺めながら、日番谷はひと口含む。





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