短 編

□依存と主従と情愛と
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時間が無い、というよりも、書物の内容を理解したくなかったのだと日番谷は自己分析する。


「…死神が輪廻の輪に戻れるのかなんて、聞いたことがないからな」


現世での一生を終えて尸魂界に来た魂魄。持っていた記憶も、長い時を過ごし新しい家族に囲まれている間に薄れ、あやふやになってしまう。

何より現世に転生した場合、尸魂界での記憶を失うとも話には聞いていた。
ましてや死神として更に永い時を尸魂界で過ごすことになれば尚更で。

尸魂界に辿り着いた時の記憶。
流魂街での記憶。

余程の想いがなければ些細な記憶など、忘却の彼方へと押し流されてしまってもおかしくはない。


「聞いたこと無い…ていうよりも、殉職してしまう方がほとんどやしね」


永い時を生きる死神も、流魂街に住まう者達も、死ねば霊子となり尸魂界の一部となる。


「転生はともかく、過去に斬魄刀が存在したかくらいは調べてみようかと」

「熱心なんは解るけど…今日はえぇやろ」


日番谷の手から湯飲みを取り上げ、自分のそれと並べ置く。


「市丸?」


そのまま、ごろりと縁側に転がると、日番谷の膝に懐いた。


「おいっ」

「久しぶりなんやから、えぇやろ?せやけど、もっと早う来たら良かったわ」

「……なんでだ?」


首を傾げ、市丸を覗き込む。


「早う来たら一緒にお風呂も入れ…っ」


軽く額を叩かれ、市丸は不服そうに口を尖らす。


「もぉ……痛いやん」

「お前がそんなこと云うからだっ」


見上げた日番谷は顔はおろか耳や首筋まで真っ赤だった。


『相変わらず照れ屋さんやなァ』


今更、裸のひとつやふたつなのだが、日番谷はそうではないらしい。
うろうろと視線が定まらず、膝に頭を乗せてから一度も日番谷は市丸を見ない。


「そないな顔しなや、冬」

『……手ぇ出しとうなるやないの』


手を伸ばし、そっと前髪に頬にと触れる。


「ボクは冬と離れて淋しかったで?」

「…戦場に行くんだ。いちいち淋しいなんて云ってられるか」


やっと見下ろしてきた碧の瞳は、どこか揺らいでいて。





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