短 編

□依存と主従と情愛と
4ページ/10ページ






笑みを浮かべてやると、日番谷の眉間に皺が寄った。


「せやね。心配かけて、ごめんなァ」

「だから、心配なんてしてねぇって」


おもむろに真っ直ぐな市丸の銀糸を掬ってみると、それは日番谷の小さな指からするすると落ちてゆく。


『…いつかお前も…』


何度か同じ仕草を繰り返し、その手を市丸の瞼の上に乗せた。


「冬?」

「お前が弱い、だなんて思ってねぇよ」


普段から市丸は手加減しているだろう。
本気になったところを日番谷は今だ、見たことがない。


だからこそ。


討伐に出る度に不安になってしまう。
市丸の安否は勿論だが、置いていかれる事の方が、日番谷には何よりも怖かった。


「俺なんかよりも、ずっと強い。帰ってくる確率だって…」


自分に言い聞かせているような声音が市丸の耳に届くが、瞼は日番谷の手が塞いでいて、その表情は解らない。


「冬?顔、見せて」

「嫌だ」


吐息が近づき、鼻先に口唇が落ちる。


「こんな顔、お前に見せたくねぇ」


市丸の口唇に軽く触れる。
薄い形の良い口唇は、ほんのりと温かく、なぜだかとても安心した。


「珍しいなァ。冬からしてくれるん?」


再び自分のそれに落ちてくる口唇を、市丸はぺろりと舌先で嘗める。
頬に触れたままの手を、首の後ろへと回し引き寄せたが抵抗は無かった。


「えぇの?」

「…お前がここにいることを…確かめたいから…いい」


軽く触れるだけの口づけを何度も交わしながら呟く言葉に、どれだけ心配させたのかが解る。


「ここにおるよ」

「ちゃんといるな」


日番谷の髪を撫で、望まれるままに口唇を明け渡し、好きにさせてやる。


「顔、見せて」

「絶対…嫌だ」


調子に乗った言葉に帰って来た言葉は、とても日番谷らしく、触れたと思えば舌先で嘗められやり返された。
口唇で挟まれ、下口唇を軽く歯で甘噛みされる。


『…あかん…冬の接吻て…』


視界を遮られているせいか、触れられる度に市丸の背筋がぞくりと震えた。





次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ