短 編

□依存と主従と情愛と
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口唇の裏側を丁寧に舌を這わされ、業と覗かせた舌先にそれを擦りつけられた。


『…なんや…いやらしいんやけど』


その先をねだる様な行為に、身体の奥でじわりと熱が燻りだす。


「冬…ちょ…っ…」


五月蝿い、とばかりに舌を柔らかく噛まれ、市丸は言葉を封じ込められる。


『どないしょ…でも、冬はえぇ、て云うたし。ボクも久しぶりやし………っ』


与えられる愛撫にも似た接吻に、己の欲が素直に反応しだす。


『誘てくれたからにはボク、頑張る……』


強引に瞼の上の手を退けようとしたが、微かに震える手に気付いてしまう。


『……冬』


触れた手は抵抗無く市丸の手に収まった。


「顔、見せたって」


その指先に軽く口唇を落とし、日番谷を見上げる。


「ボクはここにおったやろ?」

「あぁ、ちゃんといた」


目に映った日番谷は、眉間の皺は無いが、泣くのも笑うのも我慢しているような。
平静を保つだけの、微妙な顔つきだった。


「もうちょい、このまんまでおってもえぇか?」


日番谷の腹側を頭の後ろに、庭を眺める。


「風邪ひくぞ」

「ちょっとだけや」


決して深くはない接吻だったが、今夜の日番谷は自ら進んで市丸と口唇を合わせた。


『えらい、積極的やと思うたんやけどな』


あんな日番谷の表情を見てしまっては、己の欲等ぶつけたくは無かった。
がっつく程に欲しいわけでも無い。
確かにねだれば日番谷は受け入れてくれるだろう。


だが…――。


『今は膝枕で満足しとこ』


自分の頭を撫でる手も、枕になってくれている膝も温かく気持ち良い。


『たまには、えぇなァ』

「冬、明日はお昼ご飯、一緒しよな」


我ながら恋人になったばかりの相手に誘う文句だとな、と苦笑しつつも日番谷の返答を待つ。

だが、いつまで立っても日番谷からの答えは無かった。


「……冬?」





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