短 編
□白瑩の望み
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病室に出入りしていた死神達の足が遠退くのを見計らい、氷輪丸は傍にある丸椅子に腰かけた。
日番谷の顔色は幾分かは戻りつつあるが、回復と云えるまでに至ってはいない。
霊力も当然、元には戻ってはおらず。
『暫くは起き上がるのも辛いであろう』
撫でた日番谷の髪は柔らかく、窓から零れ落ちる月の光に反射して輝く雪のようだ。
『それにしても…あの死神』
流麗な眉を寄せ、日番谷の様子を見に来た死神を思い出す。
日番谷に見て貰う為にと造った、凛々しい主の姿と忠誠を捧ぐ我の像。
それを無造作に処分した死神。
『……前より良いものを造ればよいだけのことか』
些細なことで心乱すようでは日番谷にいらぬ気を使わせることになる、と早々に氷輪丸は意識を切り替えるが、空気の乱れた揺らぎに気付く。
『……?』
霊力のぶつかり合いに氷輪丸は窓の外へ視線を投げる。
『……これは……』
そう遠くない場所で、幾つものぶつかり合いを捉えた。
『斬魄刀達か……』
斬魄刀達が村正の命で、死神に刃を向けているのだろう。
『……足らぬ気配があるな……』
もっと詳しく探るべく意識を外へと向けようとしたが、傍にある大切な気配が揺れ動き、一気に引き戻される。
「……っ…」
銀色の長い睫毛が震える。
その隙間から覗くのは氷輪丸が待ち望む碧翠の瞳。
「……ここ…は……」
やはり身体への負担は大きいのだろう。
日番谷の額には汗が滲み、眉を寄せて起き上がる。
「……お前は…っ…ぅ…」
跳ね起きたはいいが、身体の痛みに背を丸める。
「無理はせぬ方がいい」
この小さな身体を軋ませ、悲鳴を上げさせてしまったことに罪悪感はあるものの。
「我のことを取り戻す為、その身体には大きな負担が掛かったのだからな」
それもこれも己の為だと思えば、笑みも浮かぶ。
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