短 編

□白瑩の望み
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先のことなどよりも今、目前に在る己の為に全てを投げ出した日番谷。
そんな主の行動が嬉しくもあり愛しい。


「…状況はどうなっている?」


目覚めて直ぐの言葉が日番谷らしく。
痛みをやり過ごし起き上がったままだが、見る限り日番谷の息は荒く呼吸も乱れていた。


『よもや戦場に出るつもりでは……』


生真面目な日番谷の性格と行動を反芻し、氷輪丸は眉を寄せた。


「村正達が総攻撃をかけてきた。今、死神達が戦っている」


ちらりと過ぎる予測をそのままに、日番谷の望む答えを氷輪丸は教えてやる。


「そうか。……だったら何時までも寝ているわけにはいかねぇ」

『……やはり』


寝台を降りようとするが相当に痛みがあるのだろう。
痛みで表情が歪む。


「……信じろ」


更に動こうとする日番谷を右手で制する。


「……っ……」


見上げてくる今の日番谷は、寝台の上で動くことすら痛みが伴う筈。


『刀を振るうなど……主の今の身体では無理だ』

「死神達はこの程度で死するほど、弱くはない。主はそれを我に見せてくれたではないか」


揺らぐ瞳が氷輪丸を見る。
日番谷には申し訳ないが、その瞳に映ることが嬉しい。


「今は身体を休めることが主の仕事だ」


寝台へと日番谷の身体を横たえ、布団を引き上げる。

この非常事に不謹慎だと云われるだろうが、主が目前に在る。

龍の姿では出来ぬ世話が今できる。

日番谷に呼び出されなければできなかった会話もできるのだ。


「主は怒るかと思うが、我は他の者などに興味はない」

「氷…り…」


咎めに近い声音を聞き流し、氷輪丸は更に言葉を紡ぐ。


「村正には感謝をせねばならぬな」


予想外の言葉だったのだろう。
日番谷の瞳が、更に大きく見開かれた。


「なんでだ?」

「記憶を失い、主に迷惑をかけたが…主が今、ここ在る。こうして言葉を交わせることができ…触れることができる」


氷の指先が日番谷の髪を慈しむように撫で、そのまま頬に触れた。





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