短 編
□白瑩の望み
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日番谷の頬に触れた氷輪丸の指先は、氷であるにも関わらず、ほんのりと温かい。
「……お前」
大きく見開いたままの瞳に映り込むのは、笑みで緩みきった己の顔。
「我の主であることを嬉しく想う」
氷輪丸の真っ直ぐな視線と、その物云いが気恥ずかしいのか、日番谷は窓の外を見るかのように視線を外した。
「嘘ではないぞ。我の居場所は主が在る処だ。まだ信用ならぬか?」
触れる手を拒絶しないだけでも良かったとするべきだろう。
記憶を失い主を忘れ、刃を向けたことは事実であり、最強と謳われる氷輪丸にとって他者にたやすく扱われたという屈辱を得ただけに過ぎない。
「我はここに在る。それだけでは足りぬか?我が主よ」
「……忘れたことは、仕方ねぇ」
漸く言葉を交わしてくれたものの、日番谷がこちらを見ることは無い。
「記憶が無くなったのは…俺が…」
日番谷の言葉に、氷輪丸は眉を寄せる。
「お前の気持ちをぐらつかせ、心を不安にさせたのは俺が弱いからだ」
「主?何を…」
「何時もここが居場所なんだ、と云い聞かせている自分がいる」
淡々と感情の無い、寧ろ敢えて押し殺した声音が室内に響く。
「立派に死神として、隊長としての勤めを果たしているではないか」
「ここにしか、居場所が無いからな」
漸くこちらを向いた日番谷の表情は、とても淋しげなもので。
「ここにいる為には、皆を失わずにいるには、お前が必要だってな。お前がいない俺はただのガキだ」
自嘲めいた笑みが、ちくりと氷輪丸の胸を痛めた。
「なのに俺が不甲斐ないせいで…お前の能力<チカラ>も使いこなせていない」
「主はもう少し怜悧な死神だと思っていたのだが……」
不意に氷輪丸に触れられたかと思うと、日番谷の頬は左右に引っ張られた。
「ふ…ふょう…ひんま…る?」
長い爪を器用に動かし、冷たい氷の指先が柔らかい日番谷の頬を更に引き伸ばす。
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