短 編

□白瑩の望み
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ぐにぐにと好きに伸ばしながらも、氷輪丸はその柔らかさを堪能する。


『ふむ……主の頬はよく伸びる』

「我の主では無かった方がよかったか?」


氷輪丸に好きにさせた頬を取り戻しながら、耳に届いた言葉に日番谷は顔を上げた。


「それは違うっ。お前は俺の半身なんだろ?声が届かなくても…かわらねぇ」


大きな瞳を更に見開き、上半身を起こしながら、氷輪丸の言葉を即座に否定した。

向けられる真っ直ぐで真摯な瞳。
そこには嘘偽りの色が見られない。


「……氷輪丸?」


霊力<チカラ>と身体の均衡は今だとれてはおらず。
それを日番谷が常に歯痒く思っていることも氷輪丸は承知している。


『実に先が楽しみだ』


見上げてくる面は、どれだけ背伸びをしていても、まだあどけなく幼い。
だが氷輪丸を使いこなすのは、そう先のことではないだろう。


『子の成長を見守る親のようなだな』


記憶の無い己は子供など、と頭から拒絶していたのだから、不思議なものだと氷輪丸は苦笑いを浮かべる。


「氷輪丸?」

「…村正の件が済めば、この姿で主の前には現れる事は無いだろう」

「村正の能力だってことか?」


日番谷の問い掛けにゆったりとした仕種で氷輪丸が頷く。


「村正に解き放たれた時、我は既にこの姿であった」

「お前は龍の姿では不満なのか?」

「そうではない。先にも云ったが、主にこうして触れる事が出来ないのが不満だな」


くしゃくしゃと氷の指先で銀色の髪を掻きまぜる。


「対話せぬ限り、主と自由に話せないことも不満だ」

「俺は…傍に在るだけで……っ」


日番谷の言葉を遮るように、びりびりと窓硝子が嫌な音を立て震えた。


「…な…んだ…?」

「……我の結界を震わせるとは」


片眉を上げながら不愉快そうに、氷輪丸は窓から外の様子を窺う。
外で繰り広げられている戦闘でぶつかりあう霊圧の余波が、病室まで届く。





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