短 編
□白瑩の望み
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氷輪丸の言葉に、ここで初めて日番谷は意識して外部の霊圧を探るが、思うように掴めない。
薄い膜が張られたような不思議な感覚が妙に落ち着かない。
「お前…結界って…」
「主が出なくともよい戦場だ。このような荒れた霊圧、主の為にならぬ」
眉を寄せ不機嫌であることを隠さない日番谷を前に、氷輪丸は当然だとばかりに云い切り見下ろした。
「心配してくれるのは有り難いが…」
「どうしてもと云うのなら、我は能力<チカラ>を貸さぬがよいのか?」
「……なっ……」
堂々と云い放つ氷輪丸の言葉に、日番谷は言葉を失う。
氷輪丸の視線は優しくも痛い。
云われたことは日番谷にも十分に解っているつもりだった。
それでも。
ひとり、いつまでも寝ているわけにはいかなかった。
「万全ではないからこそ、ここにいるのではないのか?」
「それは…っ…」
「今の身体で戦場に出たところで、焼石に水。更に自らを責めることになる」
正論にも近い言葉で畳み掛けられ、身体は再び布団の中へと戻される。
「何より主を診た隊長殿が許す筈がない」
「…っ…」
卯ノ花の有無を云わせぬ笑みが、日番谷の頭を過ぎった。
逆らうにはかなりの覚悟が必要な相手でもある。
「我も隊長殿と同意見ゆえ諦めることだ」
言葉の外に、出て行くのならば卯ノ花の耳に入れるぞ、とばかりの脅し文句が見え隠れしていて質が悪い。
『…こいつ、元々こんな奴だったのか?俺が今まで気付かなかっただけか?』
はっきりと解っているのは、どんなに日番谷が策を廻らせたところで病室から出ることはできない、ということだった。
「直に夜が明ける。それまでは身体を休めていても誰も文句は云わぬと思うが?」
見下ろす日番谷の表情は半ば諦め気味ではあるが、頭の中までそうとは限らない。
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