女神の祈り
□思いを乗せて
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《AKUMA》
それは『機械』と『魂』と『悲劇』の3つを材料に造られた悲しき悪性兵器。絆の深かった大切な人を取り戻したいという人の心の闇に〈製造者〉が現れ、アクマを造(ウ)む。
その魂は〈製造者〉に支配され、罪に苦悩し、己の姿に絶望し現実を憎悪する。
そんな魂のフラストレーションがアクマを進化させる。
《千年伯爵》
それが製造者の呼び名。汚れた「神」を調伏しアクマと共にこの世界に終焉を導く者。悲しみの連鎖を断ち切るには破壊するしか術はない。「神」に魅入られた者達、即ちエクソシストにしか葬り去ることができないのだ。
彼らの手で破壊するしか救うすべはないのだ。
世界はシナリオ通りに終末を迎えるのか。
まだ物語は幕を開けたばかり。運命の女神はどちらに微笑むのであろうか――
* * *
仮想19世紀末――――
そこでは夜な夜な奇怪が起きていた。
金色の物体がパタパタと飛び回り、石畳の間から力強く生える花と戯れる。球状の体からは鳥のような翼が伸び、先端が炎のような長い尻尾はゆらゆらと揺れていた。
「ティムキャンピー、あんまり飛び回るなよ。こないだみたいに猫に食われたらどうするんだ」
白髪の少年は注意を促すもティムキャンピーと呼ばれた飛行物体は未だ花に夢中のようだ。
「え〜〜!?猫に喰われちゃったの〜〜?よく助かったわねェ」
花に飽きたのか漸く彼の元へと戻ってきた。それを耳にしたピエロが驚きの声を上げる。
「その猫のお墓から出てきたんです」
少年、アレン・ウォーカーは答える。我が師のパトロンのひとりであるマザーに会い、ヨーロッパにある黒の教団本部の場所を窺ったのはいいものの、目的地に向かう手段がないことを思い出した。狼狽えていたところに偶然にも旅芸人一座が通りかかり、懇願して運よく乗せてもらえたのだ。
―――本当、助かった。
こんな不気味な自分をよく拾ってくれたものだ、とアレンは心から感謝した。
童顔に似つかわしくない白髪。そして左の額から頬に縦に走る傷は身の毛もよだつ程、慄くであろう。大切な、かけがえのないひとから受けた呪い。この傷跡はアレンにとって戒めであり、道標であった。アレンはそっと傷跡をなぞった。
「英国には観光で?旅人さん」
突如として会話に乱入してきたのは兎の被り物をした豊満の女性。
「いや、ちょっと、挨拶に行くんです。エクソシトの本部へ」