女神の祈り

□覚悟の果て
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暗雲は空をに包み、時折仄かな光が漏れ出し、冷たい石畳には幻想的なコントラストが描かれた。
「嘘だ…」
ジャンは告げれた真実に未だに信じられないでいた。
「嘘だよな…レオ…?」
シルクハットを被った男はニタリ、と微笑む。そのシルクハットから覗くナイフのように尖った耳は、サーカスで芸を披露するピエロのようにユーモラスであるが、異常なまでに吊り上った口端は鬼気迫るものがある。
「信じてジャン。その子は人間じゃない。キミの友達の皮を被った千年伯爵の兵器…AKUMAだ」
「だーれ??♥」
「こんばんは千年伯爵。あなたの敵です」 
アレンは禍々しい殺気を纏い、千年伯爵を睨んだ。
「エクソシストですカ!?♥それはどうも初めまし……?初めましテ…?」
アレンは巨大化した鋼鉄の左腕を天へと掲げると、手の甲に刻まれた十字架に淡い萌黄色の炎が灯された。
「十字架よ、アクマを破壊!魂を救済せよ!」
白銀に光る左腕を振りかざし、既に伯爵の兵器となったレオに鋭利な刃物のような爪先を向けた。
しかし、それは突き刺さることなくジャンの胸元で止まったのだった。
「ジャン…」
「な、何で…?何でレオがアクマなんだよ?オレの親友(ダチ)だぞ?アクマのパトロールだってこいつと一緒に始めたんだ。ふたりで街を守ろうって…」
「こいつがアクマなワケないじゃん!」
受け入れることのできない現実ほど認めたくないものはない。
「何を証拠に言ってんだよ!!!」
吐き出された言葉は虚しく、ジャンの脳天にはいくつもの銃口が宛がわれた。
「レオ…」
その刹那、【レオだったモノ】は無機質な笑みを称え容赦なくジャンに乱射した。
「ジャン!」
咄嗟にアレンはジャンを庇い、撃ち込まれた弾丸は無情にもアレンを侵す。
「アレン!」
アクマの弾丸には人体を破壊するウィルスが含まれ、撃ち込まれるとウィルスが急速に体内に侵食し、身体を破壊する。
アレンの顔中に黒い星が浮かび上がった。身体の細胞を次々に破壊し、体が悲鳴を上げる。
「ハア♥躊躇なく弾丸に飛び込んでくるとは勇敢ですねェ♥」
軋みを上げ悶えるアレンを恍惚とした表情で眺める。
「気分はどうですジャンくん?キミはねェ、ムカツクんですヨ。力もないのに正義ばーっか燃えてて、我輩にこと悪者悪者っテ♥我輩はただ、みんなのためにアクマを造っているだけなのニ♥」
ぎらついた眼鏡の奥の光は、おどけた口調には不釣り合いなほど狂気が滲み出ていたのだ。
「どうです。醜いでしょウ?♥これは人の心が招いた罪の結晶です。キミはアクマを我輩の造る単なる兵器と思っているようですが、アクマは人の心が造(う)むものなのですヨ♥このアクマもそう。キミの親友のレオが造んだアクマなのでス♥」
まるで大切なものに触れるかのように伯爵はアクマを一瞥しジャンを嘲笑する。
「レオが…?」
「死んだレオのお母さん。レオは…伯爵の力を借りて死んだ母親の魂をこの世に呼び戻し、AKUMAにしてしまったんだ。僕には見える…アクマにされて苦しんでいる彼の母親の姿が」
「見えル?♥何を言ってるんです。この死に損ないガ♥」
それは憎しみの篭った声。
「僕は対アクマ武器を宿した人間です。体内のウィルスなら浄化できる」
毒々しく黒く染まった肌は徐々に元の色へと戻っていく。
顔面蒼白したジャンはアレンに問う。
「ア、アレン…お前の…それ何?」
アレンは追憶に浸るように語り出す。
「呪い…僕は昔、大切な人をアクマにした。その呪いでこの目にはアクマに内蔵された魂が見えるんだ」
「あーーーーー!!!!♥思い出した…我輩は昔、お前に会ったことがあル…♥」
と伯爵の指差す先は殺気に満ちたアレンがいた。
「お前はアレン・ウォーカー。父親をアクマにしたあの時のガキですネ!!♥」

 * * *

『マナ・ウォーカーを甦らせてあげましょうカ?♥』
血の繋がりはなかった。
でも、奇怪な腕をもって生まれたために捨てられた僕を、拾い育ててくれた。
《ア…レン…よくもアクマにしたな…アレン!!よくもアクマに!!!呪うぞ、呪うぞアレン!!》
何が起きたのか分からなかった。
《ギャアアアアアアア》
『何これ…!?勝手に…マナ…!?やめろマナを…っ!!逃げて…逃げて父さん!!』
《アレン…お前を…愛してるぞ…壊してくれ…》
『わああああああ!!!』
―――アクマに内臓された魂に自由はない。永遠に拘束され、伯爵の兵器(オモチャ)になるのだ。―――
『破壊するしか救う手はない』
『生まれながらに対アクマ武器を宿した人間か…数奇な運命だな。お前もまた神に取り憑かれた使徒のようだ』
―――エクソシストにならないか?

 * * *

「あの時から僕にはアクマの魂が見えるようになった。始めはマナが僕を呪ってるんだと思った…だから償いになるならとエクソシストになろうとした」
「でもいつかたくさんのアクマを見てるうちに解かったんだ」
「『なぜ、強く生きてくれなかったのか。』と」
「だから償いではなく、生きる為にエクソシストになろうと決めたんです。この呪いが僕の道標…」
「AKUMAは哀しすぎる。この世界にあっちゃいけない!だから破壊します」
「アレン、お前はあの時、殺しておくべきでしタ♥」
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