女神の祈り

□月夜の使者
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黒髪の男は信じられないといった様子で乱入者を見据える。
「テメェ、何者だ?」
すると男は白刃を構え、襲撃など許すまいとばかりに矛先を乱入者の喉元へと向けた。
そんな敵意に怖気づくどころか、依然として男を見据える。
「クロス・マリアン神父の命でその子の監視を任された」
「師匠が?」
「発展途上の君のお守りをしろとね。自らをエクソシストってアクマが名乗るなんて、いくらなんでも愚直すぎるよ」
やれやれと溜め息混じりに肩をすくめる。
「時に少年、クロス・マリアンは君に何も伝えなかったの?」
「い、いえ!師匠はこちらに紹介状を送ると言ってました!」
「元帥から紹介状だと…?」
「確かコムイって人宛てに…」
そう呟かれると暢気に口元を拭いながら再びコーヒーを飲もうとする眼鏡の男へと一斉に目線が送られたのだ。
「そこの君!」
「は、はい?」
「ボクの机、調べて!」
と指差された先には古書や書類、文献などが乱雑に積み上げられ、所々に蜘蛛の巣が張っている。
「アレをっスか…」
彼の部下であろう男はまるでモンスターでも見たかのように立ち尽くす。
そこにいる全員がこの部下に同情すると共にどうしようもない上司に嘆息が洩れる。
「コムイ兄さん…」
「コムイ室長…」
「ボクも手伝うよ」
そんな彼らの思いはつゆ知らず、ベレー帽から外巻きに跳ねる髪を揺らし悠々と翻す。
「あった!ありましたぁ!!クロス元帥からの手紙です!」
力なく掲げられるのは手紙と呼ぶには相応しくはない。
「読んで!」
「『コムイへ 近々アレンというガキをそっちに送るのでヨロシクな。追伸 もう一人ガキを送る。詳しいことはそいつに聞いてくれ。BYクロス』です」
「はい!そーゆうことです。リーバー班長、神田くん止めて!」
「たまには机整理してくださいよ!神田、攻撃を止めろ!」
「リナリー、ちょっと準備を手伝って。久々の入団者だ」
「かっ、開門んん〜〜〜?」
喧騒の中で荘厳な黒の扉が開け放たれる。
「クロスが寄越した子達か…鑑定しがいがありそうだ♪」

『入場を許可します。アレン・ウォーカーくん』
鈍く光る白刃が乱入者の首元に宛がわれた。
『ごめんねー早トチリ!その子クロス元帥の弟子だった。ほら謝って、リーバー班長』
「オレのせいみたいな言い方ーーー!!」
『ティムキャンピーが付いているのが何よりの証拠だよ』
一呼吸置いてそして、さも当然のように言い放つ。
『そこの彼もクロス元帥が手紙にしてこっちに寄越してるんだから、敵でないと考えた方がセオリーだろう?彼らはボクらの仲間だ』
部下の怒声などなんのその。
部下であるリーバーが付けているインカムを剥ぎ取るようにコムイは答える。
神田は目前の二人を忌々しげに睨みつける。
乱入者もまた睨み返す。
だがこの状況もそう長くは続かなかった。
小気味の良い音を立てて殺伐としたそれを一掃したのだ。
バインダー片手に神田を制する。
「もーーーやめなさいって言ってるでしょ!早く入らないと門閉めちゃうわよ」
かなり不満気な表情を露にする神田だが、少女には頭が上がらないようだ。
まさしくそれは悪いことをした子供を叱りつける母親にも思える。
バインダーひとつでこの場を静めてしまう彼女は、ある意味尊敬に値するとアレンは思った。
「入んなさい」
彼女に託され巨大な門を通ると分厚い扉が下ろされた。
「私は室長助手のリナリー。よろしくね」
「よろしくお願いします。」
と差し出された手を握り返す。
「ところであなたは何と仰いますか?」
ふとアレンを含め、多数の者が気になっていたことをリナリーは乱入者へと投げかけた。
今まで蚊帳の外だった彼は、流し目で彼女を眺めるとぽつりと呟いた。
「……シェイドだ。好きに呼んでくれ」
「よろしくお願いします」
リナリーは右手を差し出すが、当の彼は「申し訳ないが手が汚れている。触らないほうがいい」と手を払う。
「あ、すみません。気が付きませんでした。」
何となく気まずきなり、シェイドに向けた右手は引っ込めるしかなくなった。
「じゃあ室長の所まで案内するわね」
先程のことを払拭するかのようにくるりと身を翻し、勤めて笑顔を振りまいたのだ。
するとリナリーとは真逆の方へ歩み出す神田。「あ、カンダ……って名前でしたよね…?」
厭わしくアレンを見返る。
「よろしく」
ところが、「呪われてる奴と握手なんかするかよ」と吐き捨て、その場を去ってしまった。
「…………」
「ごめんね。任務から帰ったばかりで気が立ってるの」
優しくフォローするリナリーだが、侮蔑ともとれる渾身の一撃に地味にヘコんでいるようだった。



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