女神の祈り

□Blind Messages
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「単刀直入に聞くよ。キミは何者だい?」
炯々と突き刺さる眼差しはシェイドを捕らえて放すことはなかった。
「さっきも言ったろう?クロスの使いだって」
やれやれと言わんばかりにそう放つと一口コーヒーを含む。
相手が誰であれあくまで冷静を保たなければならなず、黒の教団の室長として慎重に質問を投げかけた。
「そういうことじゃなくて、どういうわけでキミにアレン・ウォーカーの監視を任されたかをだよ」
こんなアレン・ウォーカーとさして変わらない子供をどんな意図で本部に寄越したのか、コムイは額に冷たいものが伝うのを感じる。
だがそれは思いもよらぬ答えだった。
「さぁ?」
「は?キミ大人をからかうのも大概に…」
「からかってなんかいないさ。というか、アイツの口からは何も聞いていない。だから分からない。もし俺が詮索してもはぐらかされるのが関の山だしね」
アイツの方が何枚も上手だしそんな不毛な努力はしないよとシェイドは再度コーヒーを流し込んだ。
「でさ、アレン・ウォーカーがこの聖戦の鍵を握っていると踏んでるんでしょ、あんたもさ。なんたって彼は“時”の破壊者だしね」
ニヤリと口角を吊り上げればコムイは呆然とする。
何故、と困惑するコムイを尻目にコムイの心情を代弁するかのようにシェイドは言葉を繋げた。
「少々お話しを“聴かせて”もらったよ」
自身の組んだ脚を解きほぐすとコムイの目前へと近寄って、彼の骨張った腕を掴み、ひょいと袖を摘み上げた。
突然のことに驚きを隠せないコムイだったが、シェイドの手中を覗き込むと案の定予想していたものがあったのだ。
「ちょっと悪戯が過ぎやしないかい」
眉間を強く押しながら皮肉を込めてコムイは抗議する。
「まさかこんなお偉方が簡単に引っかかっるとはね」
ケラケラと笑うシェイド。
その表情はまさに悪戯に成功した子供のそれだ。
「アイツの魂胆も分からない以上、無闇に模索したって確実に掴めるかどうかだしね」
シェイドの手に収まるそれはシャツの釦ほどの小さなもので、彼はコロコロとそれを弄ぶ。
「まぁ俺は奴の命令をを全うすればいいだけの話だし」
「随分としおらしいんだね」
破天荒な元帥が送ってきただけあって型破りな言動が目立つなかで、急におとなしくなった彼をコムイは不審を抱かずにはいられなかった。
「あんたも冗談が多いね。この俺がいい子にお座りしてる思える?」
勿論、答えはNOだ。
ゆっくりとした上品な動作で、しかし力任せに勢いよくソファーに腰掛ける。
「盆暗どもの総統は腑抜けって訳か。こりゃ傑作だね」
ニヤニヤと口の端を吊り上げれば、目のに前の男は実に不愉快だと眼光を鋭くさせた。
「そんなに怒らないでよ」
「いい加減、キミの本当の目的を聞かせてもらおうか」
シェイドはふう、と嘆息を洩らすと無造作に投げ出された脚を重ね合わせる。
「本当の目的ねぇ。どういう理由があって教団へ来たと思う室長さん?」
「上手く逃げようたって無駄だよ。キミは“聴いて”いたんだから質問に答える義務があると思わないかい?」
「しつこいなぁ、さっきも言ったけど、アイツにアレン・ウォーカーの監視をしろと言われただけで、他は何も知らない。もうこれ以上俺から言えることは何もない。だから話す必要もない」
飲みかけのコーヒーを一気に口に流し込む。
やはり冷めたコーヒーは不味かった。
口内に広がる苦味を飲み込んでソファーから立ち上がった。
「そうそう、ひとつ言い忘れてたことがあったよ」
まるで本当に話し損ねたかのように。
「俺はさ、その目的とやらのためなら何だってするつもりだよ」
とにこり微笑むとずっと手の中を転がしていた小さなものを弾き飛ばし、躊躇いもなく爪先でグシャリと捻り潰したのだ。
そう言い放った彼はコンクリートの暗闇に融けていった。
彼の消えていった部屋でコムイは囁いた。
「元帥、貴方は本当に面白い人だ」


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