女神の祈り

□マテールの亡霊
1ページ/4ページ


「南イタリアで発見されたイノセンスがアクマに奪われるかもしれない。早急に適合を破壊しイノセンスを保護してくれ」とここでの最初の仕事が告げられたのはつい2時間前のことだった。

* * *

全く、ここに来て早々任務に就かせようなんてせわしい連中だとシェイドは、苦虫を噛み潰したような顔をした。
こんな朝一から呼び出すのだ、かなり急を要するのだろう。
腑抜けの統括するコムイの待つ司令室へ急いだ。
司令室に着くと、シェイドはノックをしてドアを開けた。
そこはには膨大な書類が部屋全体を覆うようにして乱雑に積み上げられていた。
本来、整然とあるべき黒の教団の心臓がこのような何がどこにあるかも分からないゴミ溜まりのような場所では示しがつかない。
まさしくこの部屋の主の頭の中を象徴しているようだとシェイドは思った。
多種多様な知識が引き出しに綿密に詰め込められているのだが、一度引っ張り出そうとするとしっちゃかめっちゃかになって足に踏み場もない。
紙屑と化した資料を容赦なく踏みつけ、机にうつ伏せる巻き毛の男へと向かう。
するとリーバーが夢の中のコムイに近寄って耳元で囁くと、勢いよく机から起き上がった。
「リナリィィー!!!お兄ちゃんに黙って結婚だなんてヒドイよぉ―――!!!」
「悪いな、このネタでしか起きねェんだこの人」
盛大に涙と鼻水を撒き散らし、子供のように泣きじゃくるコムイ。
申し訳なく赤面するリナリーはとても不憫である。
リーバーが何を言ったのかは容易に想像できた。
傍らではなんとも言えない表情で神田とアレンが見つめていた。
「いやーごめんね。徹夜明けだったもんでね」
「オレもっスけど」
「さて、時間がないので粗筋を聞いたらすぐ出発して。詳しい内容は今渡す資料を行きながら読むように」
リナリーが資料を手渡すとアレンと神田の視線が絡み合う。
「3人トリオで行ってもらうよ」
「3人…?」
一人分空けてソファーに座る2人の前にとある人物が現れた。
「改めて紹介するよ。彼はシェイドくん。彼もキミ達と同じエクソシストで、クロス元帥の命にこちらへ来たそうだ」
彼らに向き合う少年を神田は敵意を覆い隠すことなく睨み付ける。
「よろしくって言いたいところだけどあんまり歓迎されてないみたいだね」
と挑発的に微笑む彼。
「テメェ、何者だ?」
「これはどうもご挨拶だね。そんなに俺が怪しい?」
「質問に答えろ」
「そんなにブンブン殺意振り撒かないでよ、おっかないな。前にも言ったけどどっかの飲兵衛さんのお達しでね、その子の監視をすることになったのさ」
刀の柄に手を掛ける神田を横目で見、アレンに指差した。
なぜ…戸惑うアレンをよそに彼は畳み掛けて答える。
「理由は俺にも分からない。重箱の隅を啄くようなねちっこい真似はしない。けど君がそういう存在だっていうことは念頭に置いてね」
「よろしく」と手を差し出すシェイドはどこか愉しげに笑みを称えた。
「こちらこそよろしくお願いします」
差し出された右手を握り返すと微妙な面持ちででアレンは返した。
「皆で仲良ぉくしてね〜♪」
疑惑の目を向けられるシェイドを知ってか知らずかコムイは無邪気に振る舞う。
楽しげな声色から一変、コムイは真剣な顔色で壁掛けの地図を俊敏に広げると淡々と任務を言い渡す。
「でもワガママは聞かないよ。南イタリアで発見されたイノセンスがアクマに奪われるかもしれない。早急に敵を破壊しイノセンスを保護してくれ」

* * *



†‐†‐†
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ