女神の祈り

□子守唄を聴かせて
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アクマからの襲撃で深手を負ったアレン、神田、トマ。
レベルアップし能力に目覚めたアクマは写し身の使い手だった。
合流したトマが実はトマに化けたアクマで能力で翻弄された神田。
神田は不意を衝かれコピーしたアレンの鉤爪が身体にめり込んでしまったのだ。
幸い、一命は取り留めたが、意識を取り戻さないので油断を許さない状況だ。
引きずる体に鞭打って重症の二人を担ぎながらアレンは足を進める。
任務目的の人形を逃がしてしまい、手当たり次第に探すが一向に見当たらない。
この状態ではイノセンスを保護する前にアクマにイノセンスが奪われる可能性がある。
危機的状況にアレンは焦りを覚えた。
どうにかアクマに奪われる前にイノセンスを回収しなければならない。
はぐれてしまった彼が無事にイノセンスを回収できてればいいのだが。
アレンは焦燥を歩みに転換すると何かが聞こえてきた。
思わず足が止まり、集中して耳を澄ませば段々とその正体が明るみになっていく。
「…歌…?歌が聞こえる…」

 * * *

「泣いているのか…?ララ」
思ってもみない彼の発言に少女は目を円くする。
「変なこと聞くんだね、グゾル」
「何か…悲しんでるように聴こえた…」
「私は人形だよ…?」
綺麗に微笑む彼女は影を携え、二人の様子を見守るシェイドには本当に悲しみを含んでいるように見えたのだ。
「グゾル、どうして自分が人形だなんてウソついたの?」
帽子で隠れた顔は陰っていて表情は分からないが、少女はただ老人の返答を待つ。
「私はとても…醜い人間だよ。ララを他人に壊されなかった。ララ…ずっと側にいてくれ。そして私が死ぬ時、私の手でお前を壊させてくれ…」
「はいグゾル。私はグゾルのお人形だもの。次は何の歌がいい?」
切実に願う彼に少女は手を伸ばし縋り付き、そして優しく抱きしめると深い皺を刻まれた目尻につうっと涙の筋が走った。
美しく清らかでどこまでも無垢な想いなのだろうか。
朧気に浮かぶ春の月のように儚く密やかに優しい光で翁を包容するさまは、聖女を思わせる。
「ありがとう、私達を助けてくれて」
少女が述べた感謝の言葉にシェイドは眉をひそめた。
「例えあなたが嫌でやったことだとしても、私は凄く嬉しいの。だって今、とても幸せだもの」と微笑む彼女は本当に幸せそうでこれが人形だなんて信じらんないが、気持ちこそは本物でありシェイドは微笑ましいことだと思った。
だがそんな穏やかな時間はすぐに打ち砕かれることになる。
人の気配にシェイドは少女と共に振り返り、少女ははっとして老人から離れた。
「あ、ごめんなさい。立ち聞きするつもりはなかったんですけど…」
「…キミが人形だったんですね」
そうアレンが発すると満面の笑みを浮かべたララは、豹変し可愛らしい春の訪れのような笑顔は跡形もなく消え去ってしまったのだ。
すると砂に手を突っ込んで何をするのか思えば、彼女は倒れた巨大な石柱を引っ掴んでバーベルのように頭上へと持ち上げてしまった。
想定外の事態にアレンやシェイドまでもが度肝を抜いた。
イノセンスを動力としてるだけはあり規格外のパワーだ。
「やめるんだ!ララ!!」
シェイドの制止も虚しくそれを容赦なくアレンに放り投げた。
すんでの所で石柱を回避できたがアレンの両脇には意識のない神田とトマ。
「どわたっ!!?ままま待って待って!!落ちて話しま…わっ!!!」
次々にアレンに投げ込むララを一瞥するとシェイドは、薔薇の刻印が入った漆黒の拳銃を取り出し安全装置を外した。
そして石柱目掛け二回引き金を押せばララが抱えるそれは跡形もなく粉々に砕け散った。
「聞き分けの悪い娘だ!逃げろ!ウォーカー!!」
シェイドが叫ぶが何か考えがあるのか、両肩の二人を下ろして瓦礫の飛んでこない壁際に移した。
アレンが手袋を外せば再度アレンに石柱が放たれ、咄嗟に発動したイノセンスでで容易にそれを受け止めたのだ。
予想外のララにアレンは、余裕の表情でそれをブーメランのように豪快に投げ返せば、旋回しながら迫り来るのをララは反射的に身を屈め、真後ろに立ち並ぶ石柱に激突してしまった。
「え?!石柱を…っ」
「もう投げるものはありませんよ。お願いです、何か事情があるなら教えてください。可愛いコ相手に戦えませんよ」
苦笑する彼は紳士の心を持ち合わせているようで咽せ返るほどの甘っるい台詞に、シェイドは思わず身震いする。
パチパチと大きな瞳を動かすララは慣れない気障な言葉に呆気に取られてしまったらしい。
流石はあの女たらしの弟子だけはあると納得はしたが、頭が痛くなった。
目を覚まさず壁にもたれかかる神田とトマを横にして、特に傷の深い神田のコートを脱がせたシェイドは、大きく開いた傷口に簡単な手当てを試みる。
―――この傷口、普通の人間なら致命傷なのに、ほとんど血が止まっている…確かに急所は外しているけど…この治癒力は半端じゃない。それにこの刺青は何だ?
次々とと湧き上がる疑問に首を抱えつつ丁寧に身体を拭って包帯を巻いていく。
本当にお粗末な手当てだが応急処置であるから致し方ないと、懐中時計の表を見ながら神田の手首に指を宛てる。
脈は正常とは言えないが危険な状態ではなく、不安なアレンに今は安定してるから大丈夫と告げた。
「グゾルはもうじき死んでしまうの。それまで私を彼から離さないで。この心臓はあなた達にあげていいから…!」
苦しげに懇願するさまは慈悲を求める貧しい子どものよう。
「昔、ひとりの人間の子供がマテールで泣いていたの」
ララは経緯をシェイド達に話し始めた。
醜い子供と五百年もの間も動き続ける快楽人形の奇妙な出逢いを――



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