お題

□交わらないふたつの世界
1ページ/1ページ


「あの、あのさ」
思い切って言葉にしてみようと思った。
だけどそれは叶うことなく、冷たい石畳に当たって空気になった。
大好きなあの人は曲がり角を曲がると足早に駆けていく。
―――あ、またあの子だ。
真っ黒で艶やかなツインテールをゆらゆらさせて、彼女はにこやかに微笑んだ。
彼もまたにこやかに微笑む。
―――可愛いな、あの子。髪、綺麗だしちゃんとケアしてるのかな?あ、今日はちょうちょの髪留め着けてるんだ。まるで綺麗な花に留まっているみたい。きっといい香りなんだろうなぁ。それに比べてあたしは色もない香りもない草みたいだ。誰の目にも留まらないで、刈り取られちゃうんだろうな…
あたしは食べかけのチキンライスを口に含む。
あーあ、せっかく今日は非番だから一日昼寝して、アヒル隊長を浮かべてお風呂入って、大好きなオムライスを食べて、また明日から頑張ろうと思ったのに。
なのに、なのに。
「ついてないなぁ…」
またチキンライスを口へ運ぶ。
「ジェリーさん塩効きすぎだよ…」
口の中に広がるチキンライスはいつもよりしょっぱかった。


交わらないふたつの世界
(甘い君としょっぱいあたし)



お題配布元:確かに恋だった
届かないあなたへ7題

2012.4.3.



†‐†‐†

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ