お題

□たったひとつの触れる方法
1ページ/1ページ


読みかけの資料に栞を挟め、それを膝に置くとあたしは天井を仰いだ。
余程集中していたのか一定速度で伝わる振動が下半身に響いてお尻は悲鳴を上げ、あたしは溜め息を洩らした。
くすんだ車窓から覗く景色は、未だ畑や民家がちらほらあるだけだ。
―――一体いつになったら目的地に辿り着くのやら。
あたしはまた溜め息を洩らす。
何とかモヤモヤした気分を払拭しようと汽車が動いていることなんて気にせず立ち上がった。
時折ガタリと揺れるものだからスムーズに進めなくて、背もたれを掴みながら漸く扉の前まで差し掛かった。
ドアノブを回すと風が吹き抜け、ミディアムロングの髪があたしの顔をばしばしと叩いた。
そこには見慣れたコントラストがあった。
あたしの大好きな白と黒。
「アレン!」
名を呼べばくるりと振り返る彼。
「偶然ですね!もしかして任務ですか?」
こくりと頷くとアレンはここどうぞと自身の隣へと誘導した。
彼の白髪が夕日が降り注ぎ、そこから零れる光が硝子玉のようにキラキラ輝いた。
それはまるで儚い幻のようで消えてしまうのではないかと錯覚して思わず腕を伸ばした。
不審に思ったアレンは心配そうにあたしの顔を覗き込んできた。
宙を漂う腕をどうすることもできず、顔の中心に熱が集まっていくのを感じた。
「あっ、ゴメン!頭にゴミがついてたけど風に吹かれたから…」
口からの出任せにしては我ながらよく凌げたと思う。
「ありがとう」
とアレンはにこりと微笑む。
―――やっぱりこの笑顔好き。
さっきの失態やら悩殺スマイルやらで頭の中がぐちゃぐちゃになってまた顔が熱くなる。
もう恥ずかしすぎる!!!
そんなことは知る由もない彼に大した事じゃないしと無愛想に返す。
するとアレンは延々と続く線路に視線を送る。
「キミは凄いね。いつも周りの事をしっかり考えて行動していて。尊敬しちゃうよ。それに僕は…」
とまた線路を見つけるアレン。
こうやって自分を卑下するのは何か失敗したときだ。
アレンは決まってあたしに相談してくるのだ。
駆け込み寺みたいになってるけど、これはあたしだけの特権。
そんなくだらない独占欲で心が満ち溢れるのだ。
でも最近の悩みは専ら恋愛相談。
しかもその相手はあたしの同僚ときた。
やりづらいし正直、気も進まない。
適当に相槌を打って、その間にこうしたらどうかなとかアドバイスすれば、忽ち元気になって満面の笑みを浮かべる。
この笑顔、これが見たくて他人の恋路に首突っ込んで、指くわえて自爆してるんだよなぁ。
あたしって、本当、バカだなぁ…
―――でも、あたしはアレンが、好き。


たったひとつの触れる方法
(せめて今だけは)



お題配布元:確かに恋だった
届かないあなたへ7題

2012.8.10.



†‐†‐†
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ