お題

□そこへ行くことができたら
1ページ/1ページ


あと少し…あと少しで…
「あ、やば…」
油断しちゃった。
あたし死んじゃうのかー、なんて頭の片隅で思いつつ妖しく光る弾丸を見つめた。
「大丈夫?」
―――凛とした声色。
刹那、空気が変わった。
漆黒のツインテールがゆらゆら揺れて彼女の温かさが醸し出されているような感覚に陥った。
あたしが二つ返事をすれば安心したようで吐息を洩らした。
すごく理不尽だけどそんな彼女に腹が立った。
―――あともう少しだったのにさ…
取り敢えず上辺だけの感謝を述べて彼女の手を借りて立ち上がる。
柔らかく微笑む彼女はクリッとした丸い瞳を吊り上げてアクマの元へ跳んだ。
―――サイアク。ホントにサイアク。
滲む涙を口元を結ぶことでどうにか引っ込めて地面を強く蹴った。
あたしのイノセンスは片手剣。
剣術は一応習っていたが同年の子たちはずいずい進んで行く中、あたしはいつまでも真剣を持つのを許してもらえなかった。
みそっかすの願いに答えてくれたのかあたしの手にこの剣が眠っていたのだ。
あたしの大切な相棒――
それを握り締めて駆け出したが、既に止めを刺した後でそれらは次々と爆発していき、彼女はあたしの隣に舞い降りた。
「さあ、行きましょう」
は?ナニソレ?
「あなたが何もなくて本当によかったわ」
とまた綺麗に微笑む。
そんなこと思ってもないクセに。
心にもないことを平然と言ってのけるなんて、彼女は強かな子だ。
湧き上がる怒りを抑えてあたしはポツリと口を開いた。
「ねえ、どうして助けたの?あたしみたいな出来損ない助けたって何のメリットもないのにさ」
自嘲気味に笑うと鼻の奥がツンとした。
あーあ、バカみたい。自分で言って悲しくなった。
彼女を盗み見るとぷるぷると肩を震わせて叫ぶように言った。
「仲間を助けるのに何か理由がいるの!!?」
―――ああ、そうか。そうなんだ。
なんとなく分かってしまった。
どうして彼が顔を染めて彼女の話をするのかもあたしが彼女を厭うワケも…
全部全部、分かってしまった。
どんなに努力したって優しい彼女を前にしたら、あたしは、あたしは…、


そこへ行くことができたら
(ねじまがった心がこんなに醜いなんてね)


お題配布元:確かに恋だった
届かないあなたへ7題

2012.9.15.



†‐†‐†

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ