女神の祈り

□月夜の使者
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リナリーと共にホールを突き進む少年二人。
ホールに配置する警備員たちは口々に言い放つ。
飛び交う心無い会話が彼らの耳に届いた。
「新入りか…」
「何だガキじゃねェか」
「老人かと思ったら何だよあの髪」
「呪われているらしいぞ」
「隣に歩いているやつ、突然降ってきたんだぜ」
「化け物かよ」
「あいつエクソシストなのか?」
「大丈夫かよ。あんなガキで」
「まあイノセンスには年齢は関係ないからな」
無情な歓迎の言葉。
異型なモノに恐怖するのは人間の性であるから仕方のないこと。
しかしそれでも気持ちのいいものではない。
神の使徒と崇められても、扱いはアクマと大差ない。結局は損な役回りばかりじゃないか。
唯一伯爵に対抗できる術を持つ貴重な存在であるエクソシスト。
イノセンスに選ばれたが為に聖戦の兵士と成り果ててしまった。
それは身が滅ぶまで十字架を背負わされるのだ。
誰もが酔狂で自ら英雄になったわけじゃない。
ただ目の前にある幸せを失いたくないから、みんな悲劇と必死に戦いながら生きている。
特にエクソシストなんかは。
―――ここの連中は嫌いだ…
いつの間にか思考の海に一人浸っていたはシェイドは顔を上げた。
「ここは食堂」
「このフロアは修練場。3階層に渡ってあるの」
「談話室」
「他にも療養所や書室、各自の部屋もあるから後で案内するね」
「部屋が与えられるんですか!?」
自室を貰えることにたアレンは驚喜する。
一方シェイドはさもどうでもいいようにリナリーに着いていく。
「エクソシストは皆ここから任務に向かうの。だから本部のことを[ホーム]って呼ぶ人もいるわ。出て行ったきりわざと帰ってこない人もいるけど」
アレンは自分の師が頭に浮かんだ。
「あ!ここのフロアはどんな部屋があるんですか?」
Zと書かれた扉を指差すアレン。
何故だかそれからは異様なオーラが放たれる。
「ここはいいの」
「はい?」
「いいの」
これには触れるなと釘を刺すリナリー。
「さ、早く行きましょ」
知らぬが仏とも言うのかあっさりとスルーされたフロアは、後に降りかかる悪夢だということは、アレンはまだ知らない。
「はい、どーもぉ。科学班室長のコムイ・リーです!」
「歓迎するよ、アレンくん。それと…」
「シェイドだ」
「シェイドくんか〜!いい名前だね♪いやーさっきは大変だったね〜」
―――誰のせいだ…
階段を下り検査室へと入る彼ら。
「じゃ、腕診せてくれるかな」
「え?」
「さっき神田くんに襲われた時、武器を損傷したでしょ。我慢しなくていいよ」
既に用意された椅子に腰掛け、アレンは左袖を捲り上げ診察台に乗せた。
シェイドはシェイドで壁に寄りかかり、事の成り行きを静かに傍観する。
「ふむ、神経が侵されてるね。やっぱり。リナリー麻酔持ってきて」
甲から手首にかけて一筋の傷が神経を麻痺させ、左手が痙攣している。
「発動できる?」
「あ、はい」
アレンは対アクマ武器を発動させる。
「ふむ。キミは寄生型だね!」
「寄生…型?」
「うん。人体を武器化する適合者のこと。数ある対アクマ武器の中で最も珍しい型だよ。寄生型の適合者は肉体が武器と同調してる分、その影響を受けやすいんだよね」
大型ドリルやらよく分からない重機を抱えて得意気に構えるコムイはどこか怪しげな笑みを零す。
「その装備は何ですか?」
「ん?修理」
「ちょっとショッキングだから、トラウマになりたくなかったら見ない方がいいよ」
「待っ待って…」
「GO♪」
「ギャーーーーー」
アレンの制止も虚しく容赦ない修理が始まったのだった。
「コムイ兄さん、この後あそこに行くんでしょ?アレンくん一応人間かどうか検査しなくていいの?」
「ん?いいよいいよ人間だか。」
「どうして?」
コムイはドリルの電源を止め、堪えるように切なげに微笑んだ。
「この世界で呪いなんて受ける種族は人間だけだからだよ」
コムイの言葉にシェイドは何故だか胸が締め付けられるような気がした。



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