女神の祈り

□マテールの亡霊
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―――イタリアの南部にある「古代都市 マテール」
今はもう無人化したこの町に亡霊が棲んでいる―――
調査の発端は地元の農民が語る奇怪伝説だった。
亡霊はかつてのマテールの住人。
町を捨て移住していった仲間達を怨み、その顔は恐ろしく醜やか。
孤独を癒すため町に近づいた子供を引きずり込むと云う。
「あの、ちょっとひとつわかんないことがあるんですけど…」と延々と綴られる任務資料を眺め、軒を連ねる人様の家から家をまるで忍者のように軽やかに飛び越えながらアレンは言う。
「それより今は汽車だ!」
そんなアレンの問いを躊躇なく無視して神田は駆け抜ける。
先陣を切る探索部隊は切羽詰ったようにアレン達に呼びかけた。
「お急ぎください。汽車が参りました」
「でええっ!?これに乗るんですか!」
豪快な白煙と唸りを上げ疾走する汽車に乗るのは相当な無理難題であるのにも関わらず、見事に着地に成功したのだ。
「飛び乗り乗車…」
「いつものことでございます」
探索部隊の言葉に苦い顔をするアレン。
それの衝撃波は車両の屋根から伝わり、天井が大きく凹んで教団の経費で修理したのは言うまでもない。 
強風に煽られながらも墜落しないよう彼らは車体にしがみ付き、シェイドは足元の天井窓をこじ開け車内へと降り立つ。
彼に倣って続々と中へ入っていった。
異変に気付いた乗務員は困惑するが、神田の胸元に掲げられた十字架を見るやいなや一礼をするとそそくさとその場を去ってしまった。
「なんです今の?」
「あなた方の胸にあるローズクロスは、ヴァチカンの名においてあらゆる場所の入場が認められているのでございます」 
「へぇ」
こんなに簡単に施設に入ることができるなんて便利な代物なんだとアレンは思った。
「待遇がいい反面、リスクが高い仕事なんだよ。エクソシストってのはさ」
シェイドの一言にどこか棘があるようでアレンの胸に突き刺さった。
「ところで私は今回マテールまでお供する探索部隊のトマ。ヨロシクお願いします」
黒を纏うアレン達とは対照的に白いコートの彼は丁寧な挨拶をし、退室しようとするトマをアレンは引き止めた。
「私は見張りのためにもこちらで待機しておりますので」
でも、と渋るアレンだがエクソシストなのですから今はゆっくり体を休めてくださいと微笑んだので引き下がるしかなくなった。
「で、さっきの質問なんですけど何でこの奇怪伝説とイノセンスが関係あるんですか?」
神田は大儀そうな表情を浮かべると舌を鳴らし、口を開いた。
―――今、チッて舌打ちした…
嫌々ながらも律儀に説明し始める神田にシェイドは驚きを隠せなかった。
「イノセンスってのはな…大洪水から現代の間に様々な状態に変化している場合が多いんだ。初めは地下海底に沈んでいたんだろうが…その結晶の不思議な力が導くのか人間に発見され色んな姿形になって存在していることがある。そしてそれは必ず奇怪現象を起こすんだよ。なぜだかな」
「じゃあこの『マテールの亡霊』はイノセンスが原因かもしれないってこと?」
「ああ。奇怪のある場所にイノセンスがある。だから教団はそういう場所を虱潰しに調べて可能性が高いと判断したら俺達を回すんだ」
―――奇怪…そこに在るだけでも影響を及ぼす程のエネルギーがあり、『適合者』が持てば対アクマ武器と成る…か。不思議な結晶だな。イノセンスの存在が奇怪現象を起こしてるだとしたら…マテールって一体何だ?
「これは!」
資料を目で追っていくアレンと神田は目を疑った。
既に読み終えてペラペラとページを捲るシェイドはさほど驚いていなかった。
「そうでございます。トマも今回の調査でしたのでこの目で見ております。マテールの亡霊の正体は…」



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