女神の祈り

□土翁と空夜のアリア
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物陰から呼びかけるのは、先刻交信したトマだった。
微かに滲み出ている様な錯覚をシェイドは覚えたのだ。
「悪いがこちらも引き下がれん。あのアクマにお前の心臓を奪われるワケにはいかないんだ。今はいいが最後は必ず心臓をもらう。巻き込んですまない」
二人にとっては残酷な言葉であったが、命を懸けて散っていった仲間へのせめてもの罪滅ぼしなのか。
シェイドには分からなかったが、彼が噂通りの冷酷男ではなさそうだとひっそりと口元を緩めた。
トマは手のひらに包んだ粉々の欠片を神田の目の前に差し出した。
「ティムキャンピーです」
それらは段々と元の形に戻っていく。
「お前が見たアクマの情報を見せてくれ、ティム」
バサリと翼をはばたかせると鮫の歯がズラリと並んだ口を開け、映画のように映像を映し出す。
「鏡のようだ…」
「はい?」
「逆さまなんだよこのアクマ。見てみろ、奴がモヤシに化けた時の姿…服とか武器とか左右逆になっている。ほら切られた偽者もよく見ると逆…しかも偽者は中身はカラで360度外見だけのもの。ただ単に[化ける]能力じゃない…」
「こいつは何かで対象物を写し取っているみたいだね。しかも写し取ったそれを装備するとあの子の左腕を変形させて攻撃してるところを見るとね…」
神田の説明を繋ぐようにシェイドは映像を眺めながらトマに話す。
「やっかいなモン取られやがってあいつ…」
「ウォーカー殿を探すべきでございました。もしウォーカー殿が生きてても現れた時、本物かどうか分からないです…」
「それは大丈夫だろ。左右逆になってるんだからすぐ分かる。もしそんな姿でノコノコ現れたらよほどの馬鹿だな」と断言する神田にシェイドはクツクツと喉を鳴らした。
「案外、その馬鹿が来るかもしれないよ」
「何だと?」
神田は弧を描く口元を見、一抹の不安がよぎったが首を振った。
案内役として先頭を切る今回のターゲットは、曲がり角に入ると息を合わせて一気に突っ切った。
二人の続く一行は彼らが逃げたことは露知らず。
ただ一人を除いて。
「ふたりがいない!!!に゙っ逃げやがった!!!」
「大変です!!シェイド殿もいません!!」
「くそ!あいつらどこ行きやがった!あの野郎も勝手に動きやがって…!!」と悪態をついても怒りの矛先はさだまらず。
するとトマが遠慮がちに神田を呼ぶ。
「神田殿、後ろ…」



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