女神の祈り

□子守唄を聴かせて
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刹那、空気が変わる。
音もなく巨大な鉤爪がグゾルとララを突き刺さり、伸ばされたアレンの手は空を切って砂へと引きずれ込まれてしまった。
「奴だ!!」
渦巻く砂上に噴水のように噴き出しながらシェイド達の背後にアクマが出現した。
アクマの手には腹部にずぷりと爪が貫通したグゾルに先端は抜き取れれたイノセンス。
反対側は既にただの人形に成り果てたララ。
「イノセンスもーーーらいっ!!!」
興味をなくした子供のようにグゾルとララを放り投げると激しく輝くそれをまじまじと眺めた。
「ほぉーーこれがイノセンスかぁ」
ピリピリとおぞましい殺気が暢気に鑑賞するアクマを襲い、この空間の全てを支配する。
「ウォーカー…」
「ウォ、ウォーカー殿の対アクマ武器が…」
「造り変えるつもりだ。寄生型の適合者は感情で武器を操る。宿主の怒りにイノセンスが反応してやがんだ」
「それにしても…禍々しい殺気だな…武器が彼の心を表してるみたいだ」
複雑に変化し続けるそれにシェイドがぽつりと感想を洩らすと静かに神田は頷く。
執念とも言える怒気を纏いアレンは跳んだ。
「バカ!まだ武器の造形が出来ていないのに…」
怒声を飛ばす神田にシェイドはにこりと微笑みかけた。
「大丈夫、あの子なら出来るよ」
根拠のないシェイドの自信に神田は一瞬、目を剥いたが、その間にアレンは腕をキャノンに造り変え、いくつものレーザー棒を解き放った。
―――撃った…!?
絶え間なく降り注ぐ槍は剣山のようにアクマを取り囲んで、アレンはその山に降り立つ。
吹き抜ける風の中で砂地で蠢く何か。
案の定、砂に潜ったアクマはアレンを茶化してぐるぐる回っている。
アレンもアクマの出てくる機会を窺う。
気配を大きく感じた瞬間にアレンはキャノンを構えたが、真下から飛び出してきたに腕に煽られて地中に埋もれた。
「ケケケ捕まえた!もうダメだもうダメだお前!!何回刺したら死ぬかな〜?」
右手の爪をフォークのようにして何度何度も己の腹を刺し続ける。
「ウォーカー殿ーーー!!」
―――大丈夫だ、あいつの殺気が消えていない。
大きな金属音とともにアレンは外に開放され、突き出た爪先は肉を抉ることはなく、ボキリと折れて破片が飛び散った。
銃口が絞るように次第に小さくなっていきレーザー棒の剣に姿を変える

中心に向かって斬りつけると真っ二つに砂の皮膚が剥がれ落ち、アクマは慌てふためいた。
着地すると再びキャノンに変えてアクマに撃ち込む。
「写し取る時間はやらない。ブチ抜いてやる」
乱射され圧倒されてもてもなおアクマは往生際悪く抵抗をやめない。
「グゾルは…ララを愛していたんだ。許さない!!」
ついにはコピーした腕はボロボロになり初める。
「く、くそっ。何でだ!同じ奴の手なのに…なに負けそうなんだよぉ…!!」
対アクマ武器を真に扱えるのは適合者だけ。
イノセンスとシンクロすれはする程、エクソシストは強くなれる。
―――けどそろそろヤバいかもね…
静かにアレンの限界をシェイドは感じ取った。
血液が逆流するような急な倦怠感にアレンは襲われ吐血した。
成長した武器に体が追い付かずリバウンドをして立ち上がることができず、思わず膝を付くアレン。
好都合だと言わんばかりにアクマはアレンに攻めかかったのだった。
金属同士が激しく擦れ合う。
アレンの前には神田とシェイドの姿があった。
「!?神田!シェイド!」
「ギリギリって感じだね」
「ちっ」
神田は刀で、シェイドはダガーで攻撃を受け止めるが、敵も一歩も退かない。
限界はもうそこまで迫っており、神田の腹部から血が滲む。
「この根性無しが…こんな土壇場でヘバってんじゃねェよ!!あのふたりほざいたのはテメェだろ!!!」
神田の怒声にアレンはびくりと肩を震わす。
「お前みたいな甘いやり方は大嫌いだが…口にしたことを守らない奴はもっと嫌いだ!」
「は…は、どっちにしろ嫌いなんじゃないですか…」
「別にヘバってなんかいませんよ。ちょっと休憩しただけです」
「……いちいちムカつく奴だ」
ふたりのやり取りを見てシェイドは目を細めた。
「準備はいいかい?」
神田とシェイドがアクマの腕を凪払ったと同時に最後の力を振り絞り、アレンはイノセンスを発動させた。
「消し飛べ!!」
アレンの弾丸とシェイドが放った無数の短剣に交じるように蟲がアクマへと襲い掛かった。
「エ、エクソシストがぁ〜!!」
乱れ飛ぶ攻撃を浴びてアクマは消滅した。
限界を迎えたアレンと神田は糸が切れたように倒れ、静寂を包んだ。
さっきの一撃で開けた天井の穴からイノセンスが舞い降りた。
「生きてて…ください。もう一度、ララに…」
朦朧する意識の中でアレンは懸命に腕を伸ばすが掴むことはできない
するとアレンに陰りができる。
「無理しないでゆっくりお休み…」
シェイドの言葉に安心したのか、はたまた力尽きたのか、アレンはそっと瞳を閉じた。
シェイドはそれを拾い上げると握り締め、俯いた。
「ゴメン…」
誰に向けて言ったのかはシェイド自身もよく分からなかった。
ララに向けたものかアレンに向けたものかも…
何故だか悔しいと感じた。
悲しいとも感じた。
結局、戦いの中では何も見い出せないのか。
シェイドはララの心臓を見つめる。
頭を振って気持ちを整理する。
今は二人の容態のが気掛かりで後ろにいるトマに肩越しに声をかけた。
「トマ、至急、病院に連絡してくれ。それから教団の指示を仰いでくれ」
「了解しました」
二つ返事のトマを見送るとゆっくり顔を上げてシェイドはララの想いを届ける為に砂を蹴った。




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