女神の祈り

□まるで御伽噺
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月夜を背景に刀を携えた黒髪の青年は降り立った。女性も羨望するほどの長くしなやかな漆黒の髪を揺らし、睨みだけで殺せそうな勢いでアレンを威嚇する。
刹那、一陣の風が吹き抜けた。
「一匹で来るとはいー度胸じゃねぇか…」
殺意に満ちた目で相手をギロリとアレンを睨み付け、白刃をちらつかせる。
「ちょっ、ちょっと待って!!」
誤解を解こうと両手を挙げて必死に弁解するが、努力も虚しく敵意は剥き出しのままで青年は飛び降りて来た。
「!!」
先刻のものより尋常ではない殺気の量にアレンは悪寒する。全神経が感じる生命の危機。
このままでは、本当に切り殺されてしまう。
アレンは咄嗟に対アクマ武器を発動させた。
次の瞬間に凄まじい轟音を立てて、青年はアレンの左手を斬りつけた。
「なっ…痛っ?」
生命の危機は間逃れたが、攻撃までは交わすことはできなかった。
ーー!? 対アクマ武器に傷が!!アクマの砲弾でもビクともしないのにたった一撃で…!?まさか、あの刀…
攻撃を止めたことに疑問を抱き、アレンに問うた。
「………お前…その腕はなんだ?」
「………………対アクマ武器ですよ。僕はエクソシストです」
「何?門番!!!」
心外だと言わんばかりに門番を怒鳴り付ける。
《いあっ、でもよ、中身がわかんねェんじゃしょうがねェんじゃん!アクマだったらどーすんの!?》
青年の怒声にアレンはビクつき、門番に至っては脂汗を滲ませ涙声で鼻水を垂らし、その涙声で気持ち悪さにさらに拍車が掛かる。
「僕は人間です!確かにチョット呪われてますけど立派な人間ですよ!!」
呪われていることは否定しないが泣きながら門番の顎を叩いて抗議する。
「ギャアアアア!!触んなボケェ」
ギャーギャーとコントのような騒がしい会話が繰り広げられる。
「ふん…まあ、いい。中身を見ればわかることだ。対アクマ武器発動。この[六幻]で切り裂いてやる。」
ーー刀型の対アクマ武器!!
アレンの弁解など問答無用で迫り来る。
到着早々、絶体絶命の危機が訪れたことだなんて、つくづく自分は不幸体質なんだとアレンは自身を呪った。
闇夜に散りばめられた数多の星々は燦然と輝く。
その中のひとつが閃光となり、やがて眩い光を放って瞬く間に地に落ちて行く。
徐々に加速を増すそれはアレンと黒髪の青年が対峙する断崖へと差し迫っている。
異変に気付いた男がモニター越しに叫ぶ。
「おい!お前らそこから逃げろ!!何かヤバいの降ってくるぞ!!」と彼の言葉は虚しくマイクに突き抜けるだけで、光は地面へとのめり込み、爆音のような大きな唸りを上げて、アレン達を巻き添えにし急降下したのだった。
強力な衝撃波で二人は吹き飛ばされ、土埃が舞い上がった。
「一体何が起きたんだ!?」
なんの前触れもない出来事に一同唖然とする。
大きく陥没した地面には墜落の衝撃を物語る。
「失礼、想像以上に教団(ココ)の連中が盆暗だったから、ちょっとしたサプライズだよ」
どこか愉しげに誹る口調は変声期を迎えていない子供のようにも思える。
漸く土埃が晴れ中からゆっくりと人影が現れる。
「テメェ…何者だ!!?」
青年は警戒を強め、矛先を人影に向ける。
「俺が誰かって?」
玲瓏たる声色が美しい月夜を響かせ、朧げな月光が人影を照らす。
「まあ、強いて言えばね」
人物の滑らかな絹糸の髪がふわりと風に舞い、神々しいほどに純白に光る刀身を背負った。
「そこの少年のお目付役ってとここな?」
まるで御伽噺に出てくる美しく整った顔をした少女のような少年だったのだ。





The end
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